奥雲仙田代原草原

ミヤマキリシマ咲く彩りの放牧草原

放牧牛とミヤマキリシマ

草原の概要

田代原は長崎県島原半島北部、標高約600mの千々石断層上に位置し、平野部よりも5℃程度気温が低いため夏は過ごしやすい。九千部岳や吾妻岳といった山々に囲まれ、都市の喧噪から離れた静かな箱庭のような環境の中で、春はミヤマキリシマとヤマツツジのピンク、初夏はヤマボウシの白、秋はイロハモミジに代表される紅葉、冬は九千部岳山頂に見られる霧氷といった、四季折々、彩り豊かな風景で訪れる者の目を楽しませてくれる。利用施設としてキャンプ場、トレイルセンター、九州自然歩道が整備されている。

田代原の草原は、放牧牛が木の芽や草を採食することによって維持されてきた。その際、葉などに毒があるミヤマキリシマなどのツツジ科植物が食べ残されることで、花と草原のコントラストが生み出された。放牧牛の減少によりその風景が失われつつあったが、NPO法人奥雲仙の自然を守る会を中心とする保全活動により、かつての風景を取り戻しつつある。

田代原草原全景

今後の展望

田代原草原は、その歴史的価値、生態系サービスの価値、生物多様性の価値から長崎県の住民にとって未来永劫にわたり継承し続ける必要のある自然環境であると考えられる。そこで、NPO 法人奥雲仙の自然を守る会では、次世代の草原環境保全の担い手を育成しようと盛んに環境教育を行い、行政機関との連携を模索し、奮闘している。設立当時は地域における環境保全への興味や関心は薄かったため、イベントを催しても田代原草原という地域が近隣の住民にも知られていなかった。しかし長崎大学環境科学部の協力のもと、大学の教員と学生のフィールドワークをイベント化し地域への周知に取り組んだ結果、新聞各社に何度も掲載されるなど徐々に活動が知られるようになってきた。今後も長崎大学環境科学部と連携し環境教育と広報活動に力を入れる予定である。

また、草原を未来に残す担い手を育てると同時に、自然体験が出来る草原環境の整備に今後は取り組む予定である。放牧草原内は、自然体験を行うには放牧牛の存在が危険なため、かつて放牧草原であった遊々の森の整備を進め森と草原を楽しめるエリアとしての公開を目指している。2021年より駐車場を試験的に設け、紅葉の時期に開放したところ、モミジの大木とススキ草原を散策する観光客が多数訪れ、この計画に手ごたえを感じている。加えて、草原環境を維持するために里山の活性化も必須であると考え、NPO法人奥雲仙の自然を守る会が実施している里山体験を今後も発展させていきたいと考えている。

一方で、こうした活動や生物多様性の調査の拠点、活動の記録の展示場所として活用すべきトレイルセンターの活用が進んでおらず、既存の展示物も老朽化している。そこで、訪問客に田代原草原の生物多様性を理解してもらおうと、長崎大学環境科学部の協力を仰ぎ、植物や昆虫といった生物の図鑑作りをしている最中である。近年キャンプ場が人気となり訪問客が増えているため、生物多様性の調査や自然環境保護についての啓蒙活動が急務であると感じている。

ボランティアによる保全活動

応募した理由

田代原草原は、ミヤマキリシマ群落の中で放牧牛が草を食む、かつて島原半島で普通に見られた原風景が残る唯一の場所である。

雲仙天草国立公園、島原半島ユネスコ世界ジオパークに含まれており、田代原風致探勝林は「日本美しの森」に認定されている。

一時期は、放牧牛が減少して森林化がすすみ、草原環境が失われつつあった。そこで、NPO法人奥雲仙の自然を守る会が地域住民と協働で手作業によるイヌツゲやアカマツの除伐といった草原環境の保全活動を開始した。この活動は、2022年で16 年目を迎える。当初は活動の認知度も低く、継続した協力団体が見つからなかったが、地道に活動を続けているうちに認知度が高まり、様々な協力を得られるようになった。2017 年以降は林野庁長崎森林管理署による大規模な修景伐採が行われ、草原環境の回復が急速に進みつつある。また、環境省雲仙自然保護官事務所、雲仙市、地元企業、長崎大学の協力により、地域の住民を巻き込んだ保全活動や環境教育も活発になってきた。長崎大学環境科学部は、地域固有の生物等の調査を行い、多くの研究成果を発表している。

このように活動の輪が広がり、知名度も高まりつつあるが、全国的には無名に等しいため、草原の里100 選に登録し、田代原草原の保全をこれまで以上に活発化させたい。

(応募者:特定非営利活動法人 奥雲仙の自然を守る会)

児童への環境教育

選考委員のコメント

高橋 佳孝
高橋 佳孝

島原半島の伝統的生業(和牛放牧)を継続しながら、放牧地特有の美しい野生ツツジ群落(斑状群落)を維持・保全している点がとても印象的で、全国の放牧による草原景観保全活動を勇気づける事例だと思います。また、NPO を中心に国,県,大学,ジオパークなど多様な主体が連携し、景観保全への強い思いを共有しながら、普及啓発と保全活動を幅広く展開している点が高く評価されます。当地は地元農家の生業の場でもありますので、今後は、来訪者のマナーと家畜防疫の観点も考慮した利用のルールやガイドラインの作成、牧野管理への経済的還元の仕組み,観光と農業の連携による地域資源の付加価値化の取り組みなどが実現されることを期待します。

町田 怜子
町田 怜子

島原半島での古くからの草原利用と人の生業や、生物多様性調査の結果などが大変興味深く印象に残りました。協議会の活動から奥雲仙田代草原への誇りを感じました。また国有林地の草原保全の事例としても印象に残りました。

草原の情報

草原の里 奥雲仙田代原草原
所在地 長崎県 雲仙市
所有者 国有林
管理者 雲仙市(所有者)、団体・個人
面 積 51 ha
指定等 国立公園、世界ジオパーク、日本ジオパーク、特別名勝、レクリエーションの森、風致探勝林、日本美しの森100選、遊々の森

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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