乙女高原

たくさんの魅力が詰まった小さな草原

毎年11月23日(祝)は、山梨県・山梨市・乙女高原ファンクラブ共催の「草刈りボランティア」の日

草原の概要

秩父山塊のふところにある小さな草原を中心としたエリアを乙女高原と呼んでいる。戦前、周辺には広大な草原が広がり、麓集落共有の草刈り場として活用されてきた。戦後、乙女高原にはスキー場が開発され、円滑にスキーができるよう草刈りが継続されたが、周辺の草原は活用されず、放棄されたり、植林地になったりした。2000 年には、乙女高原のスキー場利用が終了した。「草刈りをやめれば乙女高原の美しい草原は終わり。でも、自分たちが草刈りを続ければ草原が続く!」との市民運動が巻き起こり、ボランティア活動としての草刈りが始まった。以降、毎年11月23日に、山梨市・山梨県・乙女高原ファンクラブ共催の「草刈りボランティア」が開催され、多くの市民が参加して草原が保全されている。

草原には亜高山性の草本によるエリアとレンゲツツジによるエリアがある。前者は夏を中心に多くの花が時期をずらしながら咲いていく。後者は「ボランティアによる草刈り」初年の2000年に、シラカバ林に遷移しかけていたエリアのシラカバ若木を多数伐採したところ、レンゲツツジが盛り返したエリアである。

草原周辺にはシラカバ林、ミズナラ林、ブナ林などが広がり、崖などから水がしみ出している水源湿地が至るところにある。

タニガワスゲの株が隆起した「谷地坊主」

今後の展望

2019年、乙女高原を含むエリアが甲武信エコパークに登録された。今後ますます「自然と人間社会の共生」の実現が求められる。一方、本地域でも高齢化・少子化・過疎化が急速に進行しており、地域の活性低下が課題である。このような社会状況の中、自然の保全と地域の活性化や経済向上、人財流入等を結び付けた活動展開(NbS:Nature-based Solutions)が必要だと実感している。本地域は自然に恵まれ、西沢渓谷、乾徳山、夢の庭園、小楢山といった「自然遺産の構成要素」が多数散在している。これらと乙女高原とを結びつけて管理運営・情報発信・活用を進めていきたい。とはいえ、妙案が思い浮かばない。皆さんからのアドバイスをぜひお聞きしたい。

自然の保全と環境教育を結び付けた活動は今後も充実させていきたい。観察会や調査会といった直接体験の場はもちろん、メールマガジンやホームページ、会報発行など間接的な情報発信を継続・発展させていく。乙女高原を特徴づける自然については集中的・組織的に調査や観察を行い、その成果を「フィールド・ガイド」という形で出版している。これまでに「お花たち」「マルハナバチ」「スミレ」と3つのフィールド・ガイドを出版してきたが「谷地坊主」「氷華」「チョウ」といったテーマでも編集・出版していきたい。

それに加え、乙女高原を訪れた方が気軽に立ち寄れるビジターセンターを開設したい。気温測定、訪花昆虫調査など様々な調査の結果や乙女高原案内人による案内活動の成果が展示や自然解説に活かせるだろう。閉館となった市立乙女高原グリーンロッジの建物が有効利用できないか検討している。

また、興味のある子どもたちが継続的・体系的に乙女高原の自然に親しみ、自然を学べるクラブ組織をつくりたい。ビジターセンターはその拠点としても活用できるだろう。標高1,700mの乙女高原まで子どもたちが自力で行き来するのは実質的に不可能である。何か策を講じなければならない。

市民運動に浮き沈みがあるのは当然である。保全を中心に据えた活動を細くても末永く続けることを基本に置きながら、いろいろな取り組みにチャレンジしたい。

講座を修了した「乙女高原案内人」による観察指導

応募した理由

6ha弱の草原を中心に、シラカバ林、ダケカンバ林、ミズナラ林、ブナ林、カラマツ林、水源湿地など多様な環境が周辺に広がっている。そんな乙女高原で自然観察を続けていると、うれしい発見の連続だ。

初夏には草原がレンゲツツジで真っ赤に染まり、夏になると「3歩で10種類」の亜高山性高茎草原特有のお花たちに出会える。そこには当然、多くの昆虫や鳥、獣たちも暮らしている。高標高なため冬が長く厳しいが、太平洋側気候帯に位置するので雪は多く積もらない。しかし、一度降ると根雪になり、雪上観察が楽しめる。人工の光がまったくないので、一面の星空をながめることができる。

このように乙女高原は、草原面積こそ狭いが、周辺も含め多くの多様な生き物が暮らし、様々な生態系が成立している。

そんな乙女高原を多くの方に知っていただきたい。また、草原の保全活動に取り組んでいる多くの人々とつながりたい。

(応募者:乙女高原ファンクラブ)

年に一度開催する「谷地坊主の身体測定」観察会

選考委員のコメント

 

高橋 佳孝
高橋 佳孝

中部地方の亜高山帯のススキ草原とお花畑で、多種多様な植物、昆虫が保全され、定期的な観察会や丁寧なモニタリングが実施されています。メールマガジンなどによる情報発信や定期的な自然観察会、教材・学習プログラムの充実ぶりから、草原への思いの強さを感じます。草刈り作業に年間数百名ものボランティアが参加し、また、自然観察交流などを通じて極めて多くの交流人口を生み出している活動は、他の地域のモデルになると思います。

草原の情報

草原の里 乙女高原ファンクラブ
所在地 山梨県 山梨市
所有者 山梨県
管理者 山梨県(所有者)、山梨市、乙女高原ファンクラブ
面 積 5 ha
指定等 県指定自然環境保全地区、市指定天然記念物、ユネスコエコパーク、県森林文化の森、関東・水と緑のネットワーク拠点、日本山岳遺産、関東の富士見百景

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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