上山高原

但馬牛が遊び、イヌワシが舞う草原

360度の展望を楽しめる山頂部での環境学習

草原の概要

上山高原は兵庫県の北部、鳥取県境にある標高1,310mの扇ノ山(おうぎのせん)の北麓に広がっている。高原のほぼ全域が氷ノ山後山那岐山国定公園及び但馬山岳県立自然公園に指定されており、扇ノ山のブナ林など自然性の高い森林とともに、草原生の貴重な動植物を育む草原がある。

土地は県有地377ha、町有地20ha のうち、34ha をススキ草原に復元した。現在、さらに10ha増やす作業を行っており、44ha のススキ草原を目指している。

当地方は豪雪地域で、4 月中ごろに除雪してやっと高原に上がることができる。雪解けから、4 月中旬に山焼きを行い、ススキをはじめ、山野草の芽吹きを助ける。それ以降は一面ススキが中心の草原となる。夏や休日等は、星空観察、キャンプなどに訪れる方も多い。夏には、但馬牛の放牧、下草刈り、笹刈などで多様性のある草原つくりをしている。秋には、高原が一大ススキ草原として銀色の世界を作り出し、周辺は、広葉樹が多く残っており、鮮やかな紅葉を楽しむことができ、訪れる交流人は多い。

秋のススキ草原を探索する

今後の展望

草原として維持していくには、灌木伐採、笹刈などを定期的に行わないと、再び山林に戻ってしまう。今後も、定期的な伐採、笹刈、草刈りなどは必要である。草原の必要性、草原の見どころなどを訴えながら、四季の草原を訪れる方々を増やし、草原での癒し、観光的魅力を体験していただく。そのような場所つくりの一つとして「上山高原」があると思っている。ススキを中心に動植物を含めた生物多様性豊かな草原は持続されなければならないと感じている。

ボランテイア活動も重要だが、持続する自然を守るためには財政的支援がどうしても必要である。特に、行政的な支援、援助には大きく期待をしている。

草原管理は労力も経費も伴い、大変であるが、できる限り現状を守り、持続させる活動をするため、会員、地域住民、他府県の方々に働きかけて、ボランテイア活動、行政支援などで復元した草原を持続させ、本物の自然の中で「大きく息を吸い、ゆったりとした時を過ごせる上山高原」を創り上げていきたい。さらに、海や温泉といった他の魅力ある資源も近隣にあるのでそれらと連携し、地域に交流人を増やして地域の活性化に貢献していきたいと思う。

生物多様性に富む環境作りのための採草作業

応募した理由

上山高原では、自然再生推進法に基づく「上山高原自然再生協議会」を組織し、目指す将来像や実施計画を定め、多様な主体が協力して草原の復元に取り組んでいる。草原再生に当たっては、牛放牧、刈取り、火入れなどの手法の組み合わせ、作業サイクルを検証し、結果を踏まえた管理を実施している。また、当地に生息する希少種イヌワシの狩り場としての草地環境を維持・復元することも強く意識している。

これまで、高原の認知度を上げるためだけに活動してきたのではないが、上山高原の動植物の生息、希少植物の生育、四季の移り変わりを体験できる場所、さらに、観光客の安らぎの場所等としての価値を、周辺住民、他府県の方々に認めていただくことにつながる機会になると考え、今回応募した。

加えて、登録されることで、草原管理の必要性、高原の役割などを広く知ってもらうことになり、自然再生活動を継続・拡大する力にもなると考えている。

(応募者:NPO法人上山高原エコミュージアム)

冬のかんじきハイキング

選考委員のコメント

 

高橋 佳孝
高橋 佳孝

一度失われた草原を復元・再生するという他の地域ではあまりない取組みが印象に残りました。植物保全にとどまらず、イヌワシの保全も意識している点も特徴的です。関係者で組織される「上山高原自然再生協議会」が全体の指針を定め、NPOや行政、研究者など構成員が連携して個々の役割を果たしている仕組みは、他の地域の参考になります。地域の学校や大学などと連携し、次世代の育成にも力を入れていくことで、活動の継続性・強化に結びついていくものと思われます。
復元した草原の活用に関しては、肉用牛の放牧、茅葺き屋根材の生産、自然体験プログラム、ガイド事業など多様な利用形態が存在しているので、今後それらが地域の内外に循環して広まり、経済活動へと展開することが期待されます。また、山陰海岸や温泉、ジオサイト、ブナの自然林など近隣には魅力ある資源があるので、これらと連携して他の地域にはない特徴を広くアピールすることで、癒やしや観光的な利用、草原旅行商品の開発なども実現できるのではないでしょうか。
貴重な生き物や生態系の保護、また、茅材などの資材の確保の面においても、近年はシカの食害が深刻になってきたと聞いています。今回「草原の里100選」に選ばれたことを契機に、同じ悩みをもつ他の地域(キスゲ平、乙女高原、曽爾高原など)とも情報を共有しながら、効果的な被害防止策が講じられることを期待します。

草原の情報

草原の里 上山高原
所在地 兵庫県 新温泉町
所有者 兵庫県、新温泉町
管理者 兵庫県、新温泉町(所有者)、上山高原エコミュージアム
面 積 397 ha
指定等 国定公園、県立自然公園、県指定鳥獣保護区、県指定天然記念物、町指定天然記念物、世界ジオパーク、日本ジオパーク

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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