三瓶山 西の原・東の原・北の原

活火山の裾野に広がる牧歌的景観

人の営みでいきづく西ノ原の草原

草原の概要

標高1,126mの三瓶山は、約10万年前から噴火を繰り返してきた、複数の溶岩ドームからなる火山である。「火山地形の裾野に展開する『草原景観』」は、何百年も前から行われてきた和牛の放牧や野焼き、採草などで草を利用してきた農家の人々の営みが作り上げた。かつて1,300haにも及ぶ1 つの草原には、3,000 頭もの牛が放牧されていたといわれている。牛は「舌刈りと種まき」を繰り返し、草原の広がりを維持してきた。山頂まで続いていた草原は、シバやネザサからなる緑のビロードがなだらかな山容にまとわりついたように見え、しなやかなで妖艶な山と評されていた。明治時代には陸軍の演習場になり、1950 年代には営林署に売却されるなど、土地の所有形態の変遷を経ている。1963 年に大山隠岐国立公園に編入されるも、農業等を取り巻く環境の激変により草原は縮小し、今では3 つの草原に分断されている。現在、西の原は主に野焼き、放牧、草刈り、東の原は放牧、採草、北の原は草刈りや採草の管理が行われている。3 つの草原は小さいながらも、管理形態の違いにより多くの動植物の住みかとなっていて生物多様性が高い。

牛が食べ残すレンゲツツジが山に映える

今後の展望

大山隠岐国立公園に編入された理由の一つが山麓に広がる牧歌的な草原景観であることから、草原は国立公園「三瓶山」の象徴といえる。その一方で、草原が貴重で身近な自然の宝庫であること、人の手が入らないとその維持ができないことを理解する人は少ない。三瓶山の草原の土地所有者は大田市であるが、放牧については農林水産課、保全は環境政策課、観光振興は観光振興課が担当しており、三瓶山麓の草原保全と活用という大きな視点からは統括する部署が設定されていないことは問題である。また、3 つの草原それぞれについて管理・利用の長期的観点からの保全計画策定がされていないことも課題と考えられる。三瓶山には希少種が多いが、「植えて増やす」という考えを持つ市民もいる。増殖は最終手段であり、その場合もアドバイスやモニタリング等ができる研究機関などの紹介システムが必要である。三瓶山での茅の利用が停滞しており、これを促進することができると管理と利用がつながり、維持管理のための収益をもたらす。また、茅刈りをすることで野焼きの防火帯切りの省力化になり、他の事業との連結のメリットを考えるきっかけとなる。放牧や採草といった草資源の利用を行ってきた畜産農家が、高齢化や牧野組合の形骸化に伴ってこれまでの管理が継続できず、草原や放牧地がやぶ化、樹林化する心配が出ている。

草原100 選に選定されることによって、多くの市民に関心を持ってもらうことを望みたい。そして、草原の歴史や成り立ちを理解し、現存している草原を「ふるさとの文化景観」である認識をもって、市民が主体的に活動できるようにしたい。そのためには前述の課題を一つずつ解決していきたい。また、3 つの草原のそれぞれについての保全計画を官民協働して策定し、現在の西の原火入れ実行委員会を成熟させ、けん制しながらも統制が取れた管理団体に育てる必要があり、そのためには土地所有者の大田市とも協力して、草原維持と維持のための資金の捻出、後継者を育て上げるようにしたい。

燃え拡がりをジェットシューターの水で防ぐ

応募した理由

三瓶山麓に残る草原は、大草原ではないが、地域で守られてきた文化景観の結晶である。1997 年に第2 回全国草原シンポジウム・サミットを行ったほどの誇れる草原であるにもかかわらず、草原への関心や草原保全に関わっているとの意識は高くない。例えば、グラウンドゴルフのための草刈り、実行委員会の一員としての交通整理、市の動員による野焼き参加などでも、草原に関わっているという意識は低い。

三瓶山麓の草原の価値を全国に発信し、三瓶山の草原を次世代につなぐモチベーションとし、今まで構築してきた保全の組織を強固なものにするきっかけとしたい。また、地方の小草原が日本の生物多様性を育んでいること、三瓶山の国立公園の指定根拠の一つが「草原景観」であることを再度内外に認識してもらいたい。野焼きを継続するために汗をかいている方々に、自分たちが管理や保全の新しい主体であるとの意識を醸成し、誇りと意識をもって主体的に活動できるようにしたい。

(応募者:認定NPO 法人 緑と水の連絡会議)

ススキのうねりの中の「さわやかトレイル」

選考委員のコメント

町田 怜子
町田 怜子

大山隠岐国立公園に編入の指定要因になった草原であり、火山地形と草原とのかかわりも大変わかりやすく、応援したくなりました。

高橋 佳孝
高橋 佳孝

高校時代に修学旅行で訪れた三瓶山麓の牧歌的な草原の風景が思い出されます。今は、草原の面積が縮小して3箇所に分散していますが、それぞれに特徴的な管理(野焼き、採草、放牧)と多彩な利活用が行われており、伝統的な土地利用形態が受け継がれてきたことは評価できます。行政が主体となって野焼き実行委員会をいち早く組織し、公的機関・団体、市民の野焼き作業への参画、消火器材など安全装備の充実を実現している点は他の地域の参考になると思います。

草原の情報

草原の里 三瓶山麓草原の里
所在地 島根県 大田市
所有者 大田市
管理者 三瓶山西の原火入れ実行委員会、大田市(所有者)、団体・個人
面 積 175 ha
指定等 国立公園、県指定鳥獣保護区、国指定天然記念物、県指定天然記念物、市指定天然記念物、環境省重要里地里山、日本遺産、日本二百名山

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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メディア掲載

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