阿蘇・産山村の草原

水が産まれ、人々の営みが巡る村

産山村北部の草原より阿蘇五岳を望む

草原の概要

産山村は九州の中央、熊本県の内陸部に位置し、北は九重連山地域の高原上に、南は阿蘇外輪山の草原地域にまたがっており、阿蘇くじゅう国立公園に含まれている。池山水源や山吹水源など、火山地層からの豊富な湧水群を擁し、清らかな水と豊かな自然、草原と田畑、森林が混在した里山の風景が残っている。標高は900mを超え、県内でも有数の冷涼地である。

阿蘇の草原は牧野と呼ばれ、2021年の阿蘇草原維持再生基礎調査(熊本県)によれば,本村の牧野面積は1,432ha(うち野焼き面積は1,027ha)で、村の総面積の約24%を占める。村内には17の牧野組合があり、そのうち15 の牧野で野焼きが実施されている。小規模な牧野が多い中、村の北部と西部には、100ha を超える草原が広がっており、とくに、九重連山の麓の広大な草原から祖母山や阿蘇山を一望できる景観は、訪れる人の目を楽しませてくれる。

また、肉用牛(褐毛和種・黒毛和種)の放牧が盛んで、放牧により形成される「牛道」は特筆すべき景観である。野焼きによって枯れ草や低木を焼き払い、新たに芽吹いた草を放牧牛が食べる。食べられた草は丈が短くなるため、輪地切りや輪地焼きがしやすくなり、次期の野焼きを容易にする。また、牛が斜面を横断しながら地面を踏み固めることで、斜面の崩落や土の流出を防ぎ、出来た牛道が雨水を留めて地下水の涵養にも繋がる。放牧が、草原の維持だけでなく多面的な効果を発揮している証でもある。

村花にも指定されているヒゴタイ

今後の展望

担い手の減少:少子高齢化や人口流出に伴い、野焼きの中核を担う世代の高齢化や担い手不足が著しい。現在は概ね50 〜60 歳代が中心であり、10年後を考えた時に、野焼きの存続が危機に瀕している。

本村でも、単独事業として、「産山村景観保全特別事業」を創設し、輪地切りの延長に応

じた補助や防火帯づくりを行うための重機リースの補助を行っている。役場において実地計測を行っているが、地形が作業をより難しくさせているところもある。

牧野管理や野焼きが重労働であること: 急峻な地形が野焼きをはじめとした草原の維持管理作業やその存続を難しくさせている。牧道や管理道の敷設により、野焼き作業の効率化を図ったり、その道自体が防火帯としての機能を有することができれば、維持管理作業自体の負担軽減に寄与できるのではないかと考える。しかし、敷設には多額の原資が必要で、地元の牧野組合や市町村だけで負担することは困難である。

その他、野焼き延焼による損害賠償等の課題や、ボランティアの活用を行っている牧野もあるが、作業中の事故等への懸念から、ボランティアの募集に躊躇する団体があるなど、課題も多く残されている。

利用の課題:牧野組合等は入会権者で構成されている場合が多いが、外部委託などの利活用を検討する際に合意形成が難しいことも課題の一つである。

情報発信:現在、草原の景観(四季の風景だけでなく、牛道の説明、放牧の様子なども含む)を、村のFacebook において発信している。しかし、草原が持つ水源涵養機能などを村だけで維持するには限界があるため、さらに広域でもPR していく必要がある。村民共有の財産である「草原」や「牧野」は、村民のみならず、その多面的な機能(水源涵養、畜産利用、景観、貴重な種の保存など)の受益者共通の財産である。

しかし、草原の維持管理には多大な労力が必要であり、地域住民をはじめとした牧野組合員や草原を有する自治体だけでは、継続することが難しくなっている事実もある。そのため、その永続的な利活用に向けて、自治体や住民の努力だけではなく、全国的な取組みが必要であると考える。

本村においては、野焼きの維持に向けた事業を創設しているが、それに加えて、担い手が自らの活動に誇りを持つような取り組みが必要である。今後も、貴重な草原や牧野の維持に向けて、住民や関係者と連携しながら、取り組みを進めていきたい。

野焼き直後の牛道

応募した理由

先祖から受け継ぎ、村民の生活と密接な関わりを持つ「草原」は、村民の誇りであり貴重な財産であると考える。しかし、“ 草原” という基盤だけでは成立せず、地域住民が「野焼き」や「放牧」といった人的な働きかけを行うことで、双方が享受できる価値を生み出しているという観点から、本事業が提唱する「共創資産」という理念に合致すると考えるため応募するものである。

とくに本村においては、人口減少や担い手の高齢化などの影響を受け、野焼きなどの草原管理に関わる人口の減少が大きな課題となっている。本村は、高原上に位置しており、改良草地があるものの、平野部と比較すると急峻な地形を多く有しており、その特性も相まって、草原の維持活動に参画できる人が年々減っている。

今回の応募をきっかけに、外部に本村の取組を発信することはもとより、住民自らが関わる維持活動に対して誇りを持てるよう、意識の醸成を図るために登録を目指すものである。

(応募者:産山村)

産山村では牛馬優先です

選考委員のコメント

長沢 裕
長沢 裕

青い空に広がる大地と「牛道」のある風景。その神秘的な魅力と里の歴史が感じられ、ぜひ訪れ、また次世代につなぎたい素晴らしい風景だと思います。早くから環境学習も実施されており、古くからある放牧の文化と草原の多面的機能についてストーリー性を持たせつつ、村内外に広がっていくことで、存続させる意義がより明確となることを願います。

町田 怜子
町田 怜子

産山村独自の草原景観保全制度があるなど、産山村の美しい草原に対し地域、牧野組合の皆さんの誇りと熱意が感じられました。

草原の情報

草原の里 産山村
所在地 熊本県 産山村
所有者 産山村及び入会権者
管理者 産山村(所有者)、所有者団体・個人
面 積 1,432 ha
指定等 国立公園、重要文化的景観、世界ジオパーク、世界農業遺産

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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メディア掲載

「草原の里100選」に熊本県内7地域 阿蘇市や産山村など全国最多|熊本日日新聞社
 美しい日本の草原風景を顕彰する「未来に残したい草原の里100選」の第1回選定分が30日発表され、阿蘇市など21道県の34地域が選ばれた。全国草原の里市町村連絡協議会(静岡)の主催。このほか県内からは産山村と南阿蘇村、高森町、小国町、南小国