箱根の仙石原

山々に囲まれた、多様な生命を育む草原

ススキ草原

草原の概要

箱根の仙石原は「仙石原湿原」と「ススキ草原」から成り、富士箱根伊豆国立公園の特別保護地区として厳正に保護されている。当地にはかつて仙石原湖と呼ばれる湖があったが、約2万年前の箱根火山(神山)の噴火によって土砂等が流入・堆積して湿原化し、永い年月をかけて低層湿原群落とススキ群落が形成された。

仙石原湿原は、神奈川県唯一の湿原であり、その一部は国の天然記念物(箱根仙石原湿原植物群落)に指定されている。

ススキ草原は、仙石原湿原に面した台ヶ岳の麓に広がり、草原としての規模も県内随一である。現在は火入れによって維持されている。

仙石原湿原では、ヨシやチゴザサ、スゲ類といった様々な湿原植物が生育している。特に7月中旬に開花するノハナショウブはみごとで、当該湿原の夏の風物詩である。

ススキ草原では、秋にはススキの穂が一面にたなびき黄金色に包まれる。このような光景はかつて全国各地で見られたが、生活様式の変化等に伴い、特に都市近郊では見られなくなった。当地でも同様に草刈り場としての役割が減少し、野焼きがされない期間が続いていたが、自然環境や景観の保全を目的として1989年に再開された。例年3月頃に行われる野焼きの風景は、箱根に春をつげる風物詩である。

山々に囲まれた湿原と草原

今後の展望

仙石原の草原で最も懸念される課題は、近年の箱根地域におけるニホンジカの増加・侵入による影響がある。特に、希少な植物が多く生育する仙石原湿原はシカの採食による影響を受けやすく、その保全は急務である。そのため、環境省・神奈川県・箱根町が連携・協力して対策を進めており、計画的・着実な実施に向けて、2019年には「富士箱根伊豆国立公園箱根地域生態系維持回復事業ニホンジカ管理実施計画」が策定された。同計画では「仙石原湿原についてはニホンジカによる影響の完全排除を目指す」としており、湿原をシカの侵入から守る植生保護柵の設置、ニホンジカの個体群管理、各種調査などが進められている。今後も同計画に基づき関係者による連携した活動が必要である。

ニホンジカによる影響のほか、草原の管理に関わる人材の確保など大小さまざまな課題はあるが、今回の100選の選定を契機として、関係者の協力・連携体制をより強固にして、この草原を将来に渡って維持していきたい。

全国の観光地と同様に箱根町もコロナ禍で大きな影響を受けたが、最近では首都圏を中心に多くの観光客が来訪されるようになり、また外国人旅行者も徐々にではあるが回復傾向にある。箱根町の観光振興の一環として、従来の美しい景色を眺めるスタイルから、豊かな自然の中でより深い体験をしてもらうことができるよう、数年前から観光庁や環境省と連携して自然体験型アクティビティの開発なども進めている。自然環境の保全と持続的な利用を前提として、このような新たな観光利用の形態も柔軟に受け入れつつ、仙石原の草原とともに歩みを進めたい。

台ヶ岳斜面火入れ

応募した理由

箱根は古くから東西交通の要衝として多くの旅人が行き来し、箱根七湯など温泉地としてもよく知られている。箱根火山や芦ノ湖など変化に富んだ景観を持ち、国立公園として豊かな自然が広がる中でレクリエーション施設が充実しており、現在もなお多くの観光客が訪れる。

そのような一大観光地にあって、仙石原の草原は地域住民はじめ多くの関係者の努力のもとで受け継がれてきた。この貴重かつ稀有な草原は箱根町の誇りであり、次世代に確実に引き継いでいきたいとの思いから、今回の応募に至った。当地が選定されることによって、地域住民や関係者が改めてその大切さを認識するとともに、管理体制をより強固なものにして、地域の宝であるこの素晴らしい自然資源の持続的な利用を続けていきたい。また、多くの観光客が訪れる箱根は、日本の草原の重要性を伝えるに格好の場所であり、かつて当たり前のように見られた日本の原風景が今後も全国各地で大切に引き継がれるよう、機運の醸成にも貢献したい。

(応募者:箱根町)

トキソウ

選考委員のコメント

長沢 裕
長沢 裕

共生型社会の重要性を伝える場として多くを期待できると感じました。環境学習だけで はなく体験型アクティビティなどの入り口を模索しているところも素敵だと思います。野焼き で管理されていることを知る人はまだまだ少ないと思います。仙石原を訪れる多くの観光客にも、目の前に広がる素晴らしい景色の背景について知ってもらえたらと思います。 

町田 怜子
町田 怜子

首都圏に近い草原として草原の里の発信力をとても応援しています。私もよく行く大好 きな草原の一つです。富士箱根伊豆国立公園(箱根地域)に位置する草原であることから、草 原の里とインバウンドの相互連携も期待しています。

湯本 貴和
湯本 貴和

草原と湿原の両方があり、観光資源としての側面も大きい場所です。

養老 孟司
養老 孟司

地元によって熱心に管理されており、先日も野焼きが行われました。観光客も多く、草原の中の歩道は観光客で埋まっていました。草原生のアサカミキリ、ヒメビロウドカミキリなども生息しています。

草原の情報

応募者 箱根町
所在地 神奈川県 箱根町
所有者 神奈川県、箱根町
管理者 神奈川県、箱根町
面 積 30ha
指定等  国立公園   国指定天然記念物   かながわの景勝50選   日本ジオパーク 

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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