小清水原生花園

短い夏の美しい花園

砂丘上を走る釧網本線と色とりどりの花

草原の概要

色鮮やかな花々が咲き誇る景勝地として1951年に北海道の名勝、 1958年には網走国定公園に指定された。この頃の海岸草原はとくに対策をとらなくても美しい景観が維持されていたことから「原生花園」と呼ばれるようになった。1980年頃から外来牧草が目立つようになり、1990年頃には美しい花が見られなくなっていた。3年の火入れ実験を経た後、1993 年から野焼き事業が始まり、1994年11月に網走国定公園小清水原生花園風景回復対策協議会が設立され、野焼き事業の体制が整った。

協議会では「小清水原生花園生態系管理マニュアル」を定め、野焼きや外来種駆除等を実施している。野焼きでは、木本植物のハマナスにダメージが及ばないよう配慮し、原生花園を4区画に分けてローテーションで火入れしている。草原管理が科学的知見に基づき計画されている点は全国的にもユニークで、野焼き開始から約30年が経過して往時のような美しい花畑が再び見られるようになった。小清水の野焼きは「春の風物詩」として道内のTV で取り上げられることも多く、新しい文化として根付きつつある。活動によって回復した景観が評価され、2001年には北海道遺産にも選定された。

他所には見られないエゾキスゲの大群落

今後の展望

小清水原生花園の豊かな自然環境を維持していくためには、今のような形で野焼きを継続していくことが必要である。これは、これまで約30年にわたって科学的知見に基づき野焼きを実施し、美しい花々が咲き続けているという実績が出ていることからも明らかである。また、長年にわたる科学的データの集積は、自然再生事業の施策を現状に合わせていつでも修正できる「順応的管理」の根拠を提供している。小清水原生花園風景回復対策協議会構成団体からの人員参加及びボラティア参加で事業を進めているが、関係機関から出役してくる職員の中には、小清水原生花園で野焼きが行われる理由や意義について深くは理解していない人も増えてきたように感じる。引き続き関係団体と連携を強化することで、景観維持や多様性保全などに対する野焼きへの理解を深めていきたい。

小清水原生花園の南側には、濤沸湖があり、汽水湖、低層湿原で日本を代表する湿地であり、渡り鳥の大規模な飛来地として国際的な重要な湿地として、ラムサール条約登録湿地となっている。このことから、小清水原生花園を含めた周囲一帯の豊かな自然資源を守りながら活用し、美しい景観の活用や草原景観を活用した体験型観光やエコツーリズムなどを実践しながら、豊かな自然に触れることのできる観光資源としての活用も進めたい。また、野焼きをはじめ豊かな自然を維持するための取り組みはSDGsと連動した持続可能な社会の形成にもつながる可能性が高いと考えられる。このような新たな視点も取り入れながら、小清水原生花園の草原景観の維持活動について地元の参加意識の向上を図ったり、取り組みへの幅広い賛同をいただけることを期待している。

季節営業の原生花園駅と網走行き快速列車

応募した理由

小清水原生花園は北海道東部の網走市と知床半島の間に位置し、オホーツク海と濤沸湖に挟まれた幅数百メートル、長さ約7キロメートルの細長い砂丘の上に形成された植物群落と濤沸湖北岸の湿地であり、250種類を超える植物を見ることができる。短い夏を中心に色とりどりの花が咲き乱れ、小清水町の町花であるエゾスカシユリ、ハマナス、ヒオウギアヤメなどの色とりどりの花畑が来訪者を楽しませている。原生花園からはオホーツク海の先に知床連山、反対の濤沸湖側に藻琴山が見え、すぐれた景観の場所でもある。このようなことから網走国定公園や北海道の名勝に指定されているが、その価値や存在の知名度は他の草原に比べると低い。

原生花園と聞くと、「人が手が入っていない」と思う方も多くいるが、ほかの草原と同様に春の野焼きや外来種の除去作業、草刈りの実施など、人が手を入れることで維持されている草原である。特にこの原生花園での野焼きは、伝統的に実施されてきたものではなく、植生の維持のために科学的知見に基づいて実施されるようになったものであり、草原保全の先駆けともいえる特徴を持っている。草原の里100選に選定されることをきっかけとして、野焼きへの理解が広まることや、様々な保全活動へのボランティアの参加など、取り組みへの共感や賛同が増えることを期待している。

(応募者:小清水町)

毎年の火入れ作業には複数のテレビ局が取材に来る

選考委員のコメント

町田 怜子
町田 怜子

北海道の草原として期待します。火入れ実験など草地管理のデータ・研究蓄積も他の草原の参考事例になると思います。

湯本 貴和
湯本 貴和

ラムサール条約登録湿地・濤沸湖に隣接する小清水原生花園は、四季を通じて野鳥の楽園です。初夏にはノゴマ、アオジ、ニュウナイスズメ、ベニマシコなど、本州では繁殖が限定的な小鳥の囀りが幾重にも響き渡る。国内ではほとんど絶滅してしまったシマアオジも30年ほど前には珍しくはありませんでした。また厳冬期にはオオワシやオジロワシなどの大型猛禽以外にも、ユキホオジロやベニヒワの群れが見られます。吹雪のなか、珍鳥を探してさまよい歩いた日を思い出します。この野鳥の楽園を末長く見守りたいと思います。

高橋 佳孝
高橋 佳孝

「原生花園」といいながら、実は馬の放牧や蒸気機関車からの野火によって撹乱を受けて成立した「人為花園」であることを知る人は少ないでしょう。「人為的な火入れ」を導入することで、海浜草原植生の復元に取り組んだ貴重な事例です。もともと人間が用意周到に管理する火入れ作業などという慣行はなかったようですが、あえて新しい管理手段を導入し、かつてのお花畑を再現させようという試みです。保全活動を長続きさせるためには、新しい知恵や手段も取り入れる必要があることを教わりました。

草原の情報

草原の里 小清水原生花園
所在地 北海道 小清水町
所有者 国有林
管理者 小清水町(所有者)、所有者以外の行政
面 積 275 ha
指定等 国定公園、ラムサール条約湿地

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

Amazon.co.jp

メディア掲載

未来に残したい草原の里 小清水原生花園100選に:北海道新聞デジタル
草原が広がる道外の24市町村でつくる全国草原の里市町村連絡協議会(会長・岩井茂樹静岡県東伊豆町長)は30日、「未来に残したい草原の里100選」の第1弾として全国34カ所を発表した。道内からオホーツク...