日本海をぐるりと見渡せる絶景
草原の概要
寒風山は、標高 355m のほぼ全山がススキやシバなどに覆われている半自然草原であり、草原にはオキナグサやアズマギクをはじめとした草原性の絶滅危惧植物が多く生育している。昭和30年代までは草資源の採取のために草原が利用されていたとされるが、その後放置され、平成の初期には、薮化が進み、たびたび失火による山火事が発生していた。2003年には景観維持のため山焼きが約30年ぶりに男鹿市主催で実施された。その後、同市により2003年から2015年まで毎年山焼きが計画されていたが悪天候などの理由により実施されたのは4回にとどまったため、市が主催する山焼きは2016年に一旦中止された。しかし2018年ごろから、ボランティアによる山焼きが検討されるようになり、2019年からは山焼きが再々開されているほか、ボランティア活動による草刈りにより草原が維持されるようになった。山頂部一帯は南北に日本海、東に日本第二の湖であった八郎潟干拓地を望める絶好の展望地として知られ、全国から多くの観光客が訪れている。また、寒風山は小規模な火山であり噴火口や溶岩流跡、溶岩堤防などの地形を明瞭に認識できる。
今後の展望
半自然草原の維持保全に最も有効なのは山焼きであることはこれまでの取り組みの結果から明白であり、その実施面積の拡大を図ることが最大の課題である。しかしながら、春先特有の強風条件やボランティア参加者数の限界、観光施設等の配置などから、山焼きの実施区域は一部に限定せざるをえず、当面は草刈との併存で対処せざるをえないと考えている。現状では山焼きの実施区域の拡大は、現在実施している通称大噴火口内13ha 周縁部を中心に考えており、安全かつ確実に実施するため、参加者数の拡大に繋げる広報活動の充実や男鹿市が実施している草刈活動との連携強化、事前の防火帯造り作業ボランティア活動の強化等に取り組む必要がある。一方、山焼き実施箇所以外の草原においては、男鹿市による草刈活動の継続のみならず、地元住民や各種活動団体等の草刈活動への参加を呼びかけるとともに、活動資材の提供・貸与や保険の加入など活動しやすい環境整備を図る必要がある。
2021年に男鹿市では、寒風山の将来像を描くため、「魅力ある寒風山ビジョン」を策定した。この中では、上記項目に記載した寒風山の二次草原の維持管理課題への対処のみならず、寒風山を活用した地域興しや観光振興を含めた総合的な方向性が打ち出されている。具体的には優れた展望地の新たなる活用のための施設整備や草原景観を活用したフィールドアクティビティー(野遊び)の場の拡大、さらには山頂部に位置する回転展望台の再整備案などが提案されている。
ビジョンの策定過程から寒風山の草原景観維持に寄与する新たな動きが早々に胎動している。一つは元々山焼きを実施していた山麓部集落から草刈活動に協力する活動が始まり、4月の防火帯造りへの参加が実現している。また、パラグライダースクールのメンバーが中心となって草刈活動を担うNPO法人の設立も準備されている。
さらには、体験型観光やジオパークガイド活動と連動したエコツーリズムの充実を通じた地域振興の実現を図ることなどにより、SDGs と連動した持続可能な社会の形成にも資するものと考えている。何より地元の誇りである寒風山の草原景観の維持活動への市民の参加意識がより一層大きくなることを期待している。
応募した理由
秋田県の北西部に位置する男鹿半島の付け根付近にそびえる寒風山の草原は優れた草原景観が評価され男鹿国定公園の一部として指定されており、秋田県内のみならず北東北を代表する大規模かつ学術的価値の高い場所である。
このことを全国に向けてアピールするとともに、その価値や存在意義を地元及び県内の関係者に広く認識していただきたいとの趣旨で草原の里100選への登録を行おうと考えた。
登録をきっかけとして、山焼きや草刈りといった寒風山の草原の維持保全活動への参加が促進されることや、寒風山の特徴である地形・地質資源との連携を図ることで、自然を生かした地域興しに寄与したいと考えている。すでに寒風山ではパラグライダー等のアクティビティが行われており、地元事業者が様々な形で活用している。今後さらに地域事業者や行政等と連携し草原の維持管理を進め、草原を活用したアクティビティー(野遊び)のさらなる推進や新たな視点からの観光振興にも繋げていきたい。
(応募者:寒風山山焼き実行委員会)
選考委員のコメント
東北への仕事で 2 回ほど伺ったことがあります。名前の通り、冷たい風が吹きぬけていき、新鮮な風を感じられる最高のスポットでした。また、頂上からは男鹿半島や八郎潟も一望でき、郷土愛を育むのにも適した場所だと思います。頂上の施設などで八郎潟や男鹿半島にまつわる民話や伝説が知れたら、そこから見る風景もまた少し違って見えるのではないかと思いました。これからもなまはげの文化と共に地域の文化が育まれていくような草原になることを願います。
北東北の二次草原として貴重な草地であり、ジオパークガイド、大学等、消防団など多様な主体が連携した草原保全や活用方策が印象に残りました。
草原の情報
草原の里 寒風山
所在地 秋田県 男鹿市
所有者 秋田県、男鹿市、財産区、神社有地、個人
管理者 男鹿市(所有者)、所有者以外の行政・団体
面 積 135 ha
指定等 国定公園、日本ジオパーク
書籍のご紹介
より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。