朝霧草原

4千年前の溶岩流の上に形成された草原

10月のススキ草原

草原の概要

富士山西麓の標高920mから980mに広がる南北約1.5km、東西約0.8km、面積約52haのススキ草原。300年余にわたって火入れが続けられ、今日までススキ草原が維持され続けている。かつて根原の集落が中道往還の伝馬の駅であった時代は、馬草場や茅場として利用されていた。現在富士宮市根原区財産区によって所有され維持管理されている。また文化庁のふるさと文化財の森に設定され、文化財建造物の茅屋根の修復用茅を産出している。

富士箱根伊豆国立公園の区域内にあり、富士山の裾野の草原景観の保全が求められている。多くの在来植物が生育し日本らしい植生がみられ、日本はもとより世界に誇れる二次的自然草原となっている。草原には水源涵養機能、土壌保全機能、自然災害抑制機能、気候緩和機能、エネルギー供給機能、生活資材供給機能、保健休養機能、文化的機能など多面的機能(公益的機能+生態系サービス)を有している。中でも水源涵養機能は、蒸発散量の多い森林よりも草原の方が涵養機能が大であるといわれている。

キスミレの群落

今後の展望

朝霧草原は根原区財産区の一部であり、民法上の財産権がある。出入口は鎖を張り立入禁止の告知板を設置している。立入は管理者である根原区長の許可を要する。

国道139号利用者が、富士山と草原の写真を撮るために出入口に車をとめて草原内に立ち入ることもしばしば見受けられる。山菜を採るために立ち入るケースもあり住民や警察に注意されるケースも多い。

草原の里100選に登録されることにより、財産権の侵害や迷惑行為が増えることで、対応に多くの人員が割かれることや草原の管理に支障をきたすことなどが危惧される。

登録後の利用者のマナー向上や利用にあたっての注意事項などの情報発信に加えて現地での人的対応のあり方など体制の検討が課題となっている。

半自然草原は人のかかわり方によってその姿が変化する。朝霧草原は富士山と相まって景観的な魅力を高めている。加えて全国で減少している在来植物による日本らしい自然景観の草原として貴重な存在であり、世界に誇れる草原である。

朝霧草原が世界中の多くの人々に愛され、適切に利用されることで、将来に亘って正しく維持される共生資産となることを切に願うものである。

茅倉庫での茅刈り講習(座学)

応募した理由

根原区は高齢化と人口の減少が顕著であることから、草原を維持することが困難な状況にある。現在の住民が、草原を将来に亘って維持することの必要性を認識して次世代に伝えて手渡すことが強く求められている。また、多面的機能を有する草原は、住民のみならず周辺地域の人々にとっても必要不可欠でかけがえのない地域資源であり共生資産である。

このため、ふるさと文化材の森関連のフォーラムや地元企業の助成による観察会や自然環境保全フォーラムなどにおいて住民や一般市民を対象とした普及啓発活動を継続して実施しているところである。

草原の里100選への登録は、住民や一般市民、活動に関わるメンバーや行政にとって、朝霧草原の価値を再認識し精神的な支えになると考えている。加えて、草原を将来に亘って維持していくための情報を広く、正しく伝え、多くの賛同者を募る機会を得ることが目的である。

(応募者:富士宮市根原区)

4月、草原の火入れ作業

選考委員のコメント

太田 長八
太田 長八

観光地として100選に選ばれたときに多くの課題を挙げています。この課題をどのように解決していくか注目していきたいです。

高橋 佳孝
高橋 佳孝

富士山の裾野に広がる草原で、国立公園として景観的に優れているだけでなく、草原の保全と利用のバランスのとれた取り組みが実践されています。管理(火入れ)面では財産区出身者と外部のマンパワーによる人材育成が、利用(茅刈)面では茅刈りの担い手育成が進められ、持続していく可能性が高い草原の里ではないかと感じました。また、外部との連携・共生も指向しており、活動が一層強化されることが期待されます。草原の水源涵養機能についての言及があり、近隣には富士山の伏流水を利用する企業もあるようですので、そのような企業と連携した取り組みも今後は期待できそうです。

町田 怜子
町田 怜子

「茅刈り人の育成」の育成を通じた伝統的な草原の資源利用や、技能の継承が、草原保全に寄与している点が印象に残りました。
湯本:伝統的な火入れが維持され、将来に受け継ぐ仕組みが確立されているようで、他の草原にも大いに参考になりそうです。財産区としてしっかりとした管理体制の土台がありながらも、外に開けた活動を行なっている様子が窺われます。

草原の情報

草原の里 富士宮市根原区朝霧草原
所在地 静岡県 富士宮市
所有者 根原区財産区
管理者 根原区
面 積 52 ha
指定等 国立公園、ふるさと文化財の森、日本百名山

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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