東お多福山草原

阪神地域、瀬戸内海を望む展望地

市民 ボランティアによるササ刈りと、 刈り取った ササの集積・搬出作業 によって 維持されている

草原の概要

東お多福山は兵庫県神戸市と芦屋市にまたがる標高697mの山で、六甲山最高峰(標高931m)の前衛峰的な位置にある。同山の標高約630mから690mあたりに、六甲山地では最大面積で唯一ともいえる草原が広がっている。稜線に広がる草原は、明るく開放的で見晴らしがよく、眼下には阪神間、大阪市内、大阪府北部の街並みが、遠く南方向には大阪湾、淡路島から紀淡海峡、南東にかけては、大阪府と和歌山県、奈良県との境の山々が見渡せる。大都市近郊にあり、六甲山系の主要なハイキングコースの一つでもあるので、四季を通じて多くのハイカーが訪れ、展望や草花を楽しんでいる。

戦前までは茅を得るための草刈り場として利用され、ススキ草原が広がっており、1948年には約83haの草原面積があった。戦後の生活様式の変化により茅の需要は減り、開発や植林、森林群落への遷移によって、2007年には草原面積が約9haにまで減少した。優占種もススキからネザサに置き換わり、草原生の草花も少なくなっていたが、近年は復活してきている。

ササユリの花を観賞できる初夏の草原

今後の展望

国立公園内であることや、急峻な山体の中にあり草原に直接いたる車道がないことから、大型の機器の使用や山焼きなどによる管理ができないため、草刈り作業は人力に頼らざるを得ない。しかし研究会を構成する各団体の会員の減少と高齢化が進んでおり、コロナ禍の影響もあって、ネザサの刈り取りや搬出を行う作業者の十分な確保が困難となってきている。広報やイベント開催などを積極的に進めて、新たな作業協力者を獲得することが最大の課題である。また、高齢者や女性が多いことから、使用する機材の軽量化や、一部作業の外注化なども検討課題となっている。

さらに、切実な課題として、草原の管理活動や活用をより活性化するためには、草原内に長く滞在できるようにする必要があるが、草原の最寄りには常設のトイレがないため、大勢が長時間滞在できる条件が整っていない。現在は携帯トイレの携行と使用を推奨して対応しているが、今後は国や自治体によるバイオトイレの整備が望まれる。

一方、東お多福山の草原は、京阪神の都市圏から公共交通機関と徒歩で行くことができる身近な草原として、他地域とは異なる希有な存在といえる。草原により作られた眺望に富んだ風景と、そこに咲く季節の草花は多くのハイカーを楽しませ、六甲山系の名所の一つにもなっている。このような多面的な価値をもつ当地が、都市圏間近で維持されていることは、地域の大きな財産であると考える。

定期的な管理作業やモニタリングに加えて、定期的な自然観察会や、青空ジャンベライブといった草原に楽しむイベントも開催し、より多くの人々が気軽に参加できるような取り組みも進めている。観光資源としてだけでなく、茅の地産地消の取り組みも始まり、当地の草原の価値は、さらに増していると思われる。将来的には、国際都市神戸にあることから、外国人ハイカーの誘致をはかり、日本の草原の素晴らしさを伝える場所になって欲しいと願っている。

コロナ禍で約2 年間にわたり活動が停滞したが、ポストコロナの時代に向けて、組織・体制を立て直し、さらに、将来的には草原面積を今以上に拡大して、次世代に引き継ぎたい。

収穫したススキは茅葺き職人が束ねていく

応募した理由

兵庫県神戸市と芦屋市にまたがる東お多福山の山頂付近には草原があり、開放的な景観が広がっている。戦後まもなくまでは採草によりススキ草原が広がっていたが、利用されなくなり、高さ2m程のネザサ草原へ姿を変えた。植物が豊かなススキ草原の再生を目指して、2007年からネザサの刈り取り試験が開始され、2011年には複数の市民団体により「東お多福山草原保全・再生研究会」が組織され、行政、研究者との協働による保全活動が継続している。現在では約2haがかつての草原として蘇りつつあり、実施モデルとしての価値を有する。

多くの草原が山間部など遠隔の地にあるのに対して、当地は大都市近郊にあって、公共交通機関と徒歩でも比較的容易に訪れることが可能である。そのため、多くの一般市民が草原を知ったり、活動に参加したりする契機を提供することできる。草原の魅力をより多くの人たちと共有し、今後草原を引き継いでくれる仲間の輪が広がることを期待して応募した。

(応募者:東お多福山草原保全・再生研究会)

大阪府と、奈良・和歌山両県の境までの眺望

選考委員のコメント

町田 怜子
町田 怜子

神戸市・芦屋といった都市近郊に残る草原として貴重であると思いました。今後の草原学習など人と草原とのつながり、交流が期待されます。

高橋 佳孝
高橋 佳孝

大都市近郊に残された希少な草原で、多くの市民ボランティアによって支えられていますが、今後は「草原の思い出を持たない世代」に対して草原の価値をどのように伝えていくかが重要かと思われます。都市近郊の立地を活かして、SDGsに取り組みたい地元企業などの研修や活動に活かされることを期待します。

草原の情報

草原の里 東お多福山草原
所在地 兵庫県 神戸市、芦屋市
所有者 兵庫県神戸市、芦屋市、一般社団法人
管理者 神戸市、芦屋市(所有者)、所有者以外の団体
面 積 9 ha
指定等 国立公園、環境省重要里地里山、県指定鳥獣保護区、県レッドリスト2020、神戸市レッドデータ2020

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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