曽爾高原

時を超え、連綿と守りつなぐ奥大和の茅場

夏の曽爾高原。人の手によって守り継がれる茅場の景観は、トレッキングなどで訪れる人も魅了する。

草原の概要

奈良県宇陀郡曽爾村大字太良路地内、室生赤目青山国定公園第一種特別地域内にある。倶留尊山(1,038m)と亀山(849m)の西斜面から麓に広がる草原で、面積は約38ha。昔から地域内の茅葺き屋根の材料の育成・供給地として機能してきたほか、伊勢神宮など村外の需要にも応え、出荷してきた歴史もある。近年では村内の茅葺き屋根の減少や茅刈りにあたる人の高齢化が進む中、曽爾高原を守る会が中心となり、山焼きなどを行い保全活動に取り組んでいる。

夏は緑色の絨毯、秋には穂が黄金色に輝く様子が美しく、多くの訪問客を魅了している。また毎年 2月頃に曽爾高原を守る会で行う山焼きでは、一面のススキが炎に包まれる圧巻の光景を見ることができる。

サギスゲ

今後の展望

近年ススキの植生が悪化しており、獣害柵の設置、観光客の草原踏み荒らし防止、肥料散布、山焼き時期の前倒しなど、その改善に向けた取り組みを試行錯誤の中で続けている。曽爾高原を守る会は村内の関係者などの有志で運営しているが、年間50万人といわれる観光客なども含め、広く参加者を募りながら守る機運を高めていきたいと考えている。観光客の大半は、曽爾高原が茅葺き屋根の原料をまかなう茅場であることを認識しないままススキが揺れる様子を楽しんで帰っているのが現状で、茅場であることを共有していくことが大切になる。さらに、今後茅の利用も含めた展開を見据える中で、村外の茅職人や企業など、幅広い関係者の参画を得ながら進めていく必要があるのではないかと考えている。人と自然が共生しながら生きていくSDGsの視点の重要性が今叫ばれているが、連綿と続く曽爾高原の営みそのものが共生を体現してきた。今後教育やサステナブルツーリズムの一環で曽爾高原を守る取り組みを次代に向けて伝えていくことができればと考えている。物を浪費し使い捨てにするのではなく、身近にあるものを生かす暮らし方が見直されている。茅葺きの文化を含め、曽爾村に息づくこうした知恵や技を発信していくことが、村の魅力をさらに高めていくために大切である。

山焼きのため高原を登る曽爾高原を守る会メンバー

応募した理由

曽爾高原は、茅葺き屋根の材料をまかなう茅場として、1,500年前から山焼きをするなど、人の手を入れながら守りつがれてきた自然・文化資源である。近年は茅葺き屋根の減少に伴い、茅が搬出されることが少なくなり、有志による「曽爾高原を守る会」が保全活動を続けている状況である。国内の茅の需要が低迷する中、海外では茅葺きの建造物がステータスになるなど、身近な資源を生かした持続可能な住まいとして脚光を浴びている。曽爾村の曽爾高原は、今は観光資源として重要な存在だが、人が自然 と共生して守ってきた資源として守り、活用していくことにこそ意味があると考え、2021年秋には「曽爾高原の未来を考えるシンポジウム」を開催した。茅葺の国選定技術保持者である隅田隆蔵さんにも登壇いただき、曽爾村内外の様々な関係者で知恵を絞りながら、曽爾高原の茅を守っていくことを確認した。さらに今回の草原の里100選を、取り組みのすそ野を広げる足掛かりにしていく。

(応募者:曽爾高原を守る会)

お亀池の周囲がライトアップされる「山灯り」

選考委員のコメント

長沢 裕
長沢 裕

学生の頃、倶留尊山のふもとで農業体験をしていたので曽爾高原にはとても親近感が湧きます。長い歴史があり、今もそれらを大切に次世代へつないでいくための活動が活発に行われており、感銘を受けました。ヤッキリ刈りやヤッキリ焼きなど地域性が現れる言葉もあって草原がまさに文化の一つとして地域に根付いていることが感じられました。

高橋 佳孝
高橋 佳孝

茅の生産地として山焼きの古い歴史をもつススキ草原で、近畿地方では数少ない貴重な草原です。詳しい記載はありませんが、植物相も豊かで、来訪者も数多く、景観の価値や動植物の把握などについては今後に期待したいと思います。
草原管理の体制の変化により、今後は地元の方の関わる部分が小さくなって、代々地元で受け継がれてきた技術や伝統がどこかで消滅しないかと懸念されるなか、熟練者と若手が協働して作業に当たるなど、山焼き技術の伝承が図られていることは希望がもてます。また、茅葺き職人との交流による茅葺き技術伝承の試みも、茅の活用拡大へと期待が膨らみます。
以前に、近隣にある県の試験場を訪れたとき、人工草地に多数のシカの糞が散乱していたことを思い出しました。当時からすでにシカの食害が発生し、曽爾高原でもその影響があるのかも知れません。ススキ植生の衰退は兵庫県の砥峰や上山高原(後者はススキの新芽の食害を受けている)でも問題となっていますので、情報を相互に共有されてはいかがでしょうか。

草原の情報

草原の里 曽爾高原を守る会
所在地 奈良県 曽爾村
所有者 奈良県
管理者 曽爾村
面 積 38 ha
指定等 国定公園、県景観資産、平成の名水100選

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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