鏡ヶ成草原

「自然保護憲章」発祥の地

烏ヶ山を望みながら、草原内にある湿原の保全作業で汗を流すボランティア

草原の概要

鏡ヶ成は標高 920mに位置し、周囲を山々に囲まれ、ススキ主体の草原が広がる風光明媚な地域である。

1898年には、陸軍の軍馬育成場が作られ、放牧地として利用された後、戦後しばらくは地域住民の採草地として利用されていたと考えられる。1963年国民休暇村(現在の休暇村奥大山)が開設され、山の斜面部はスキー場、ほぼ平坦な緩傾斜部は自然探勝の場として利用されていることから、現在でも草刈りが行われている。盆地状地形の中心部にある小規模な湿原には木道が設置されている。

2000年に草原に存在する湿原の減少等がみられたことから、湿原の復元及び草原景観の保全方法について検討が開始され、2018年には産官学で構成された大山隠岐国立公園鏡ヶ成保全再生活用協議会が発足し現在に至る。現在は、消滅しているウスイロヒョウモンモドキの再導入を目指し、将来ビジョンを作成して長期に渡って草原が維持できるような取り組みを検討している。

年々広がるアザミのお花畑に蝶が乱舞する

今後の展望

この鏡ヶ成では、これまでの研究やモニタリングの結果、草原では長年秋の草刈という管理から山焼きと草刈りの組み合わせという管理に変えることで、生物多様性維持・向上につながることが示されている。湿原では灌木やササ類の侵入により地下水位が低下して乾燥化が進んでいるため、灌木の伐採等の植生管理や堰の設置等により地下水位を上昇させることで湿生植物群落の維持・拡大につながるものと考えられる。したがって、このような管理の継続と拡大を図ることが望ましいと考えている。これらの方針に基づきゾーニングを行い、効果的な手法により良好な自然を取り戻していきたい。

さらに、大山隠岐国立公園の特別地域内において捕獲等が規制されている動物(指定動物)となっているウスイロヒョウモンモドキ(環境省:絶滅危惧ⅠA類)については、かつては中国山地に広く生息しており、この鏡ヶ成でも生息が確認されていた。しかし近年、生息が確認されなくなり、しばらく時間が経過していることから、再導入に向けた食草の増殖(オミナエシやカノコソウ)等、ウスイロヒョウモンモドキの生息に適した環境作りを行っていくことが、数年以内の中期的目標である。

管理体制については環境省、鳥取県、鳥取大学、自然公園財団、サントリーホールディングス株式会社等、産官学の多様な主体が連携する協議会が設立したことによって、比較的整ってはいるものの、管理作業については、この場所に携わる誰しもが実行できるような体制を整理し、ボランティア参加者の増加と安定確保が今後の課題となっている。さらに、これまで不十分であった自然観光利用(エコツーリズム)の展開や積極的な情報発信も積極的に実施していく必要がある。

山焼きは安全第一で無理はしない

応募した理由

鳥取県の西部、江府町にある鏡ヶ成は、大山隠岐国立公園に位置し、周囲を象山、擬宝珠山に囲まれている半自然草原である。草原内には鳥取県内でも希少な湿地が存在しており、多様な自然環境が残されている地域である。1967年の第8回国立公園大会開催の際に「自然保護憲章」の制定が決議されたことから、自然保護憲章発祥の地としても知られている。当地の豊かな動植物が住みつづけることができる環境を維持しようと、環境省では2012年から、一般ボランティアも交えた保全作業をはじめた。保全作業では、侵入木の刈り取り、草刈り等を行ってきた。さらに、2018年からは植生管理のための火入れを試験的に導入し、年々その面積を拡大している。このような作業を継続し、鏡ヶ成の草原・湿原を維持していくには、さらに多くの人の理解や支援が必要である。そのため、この草原の里100選に申請し、また100選への登録を契機に鏡ヶ成の価値を全国の人に知っていただきたいと考えている。

(応募者:大山隠岐国立公園鏡ヶ成保全再生活用協議会)

擬宝珠山から鏡ヶ成を望む

選考委員のコメント

 

高橋 佳孝
高橋 佳孝

「自然保護憲章発祥の地」において、環境問題の多様化の流れに対応する形で、環境省や県、大学、企業など産官学が協力し、「鏡ヶ成保全再生活用協議会」を組織して維持管理の方針を協議し、保全活動を行っているのが特色です。従来の草刈り作業に加えて、新たに「山焼き」を導入して健全な草原の維持を図り、山焼き後の植生変化については大学がしっかりと調査研究する体制が整備されていることも素晴らしいと思います。
草原の管理作業には自然愛好家、山岳会、休暇村など多くの関係者が参画し、それぞれの役割を担っていますが、山焼きの技術は近隣の先進事例に学んで定着させ、ボランティアの参加体制の充実も図られている点はとくに評価されます。また、草原の水源涵養力の高さが再認識されてきた昨今、「国立公園パートナーシップ協定」に基づく地元の飲料企業との連携による湿原再生や草原管理という新しい形の取り組みは、他の地域の参考になるでしょう。

草原の情報

草原の里 大山隠岐国立公園鏡ヶ成保全再生活用協議会
所在地 鳥取県 江府町
所有者 江府町
管理者 所有者以外の団体(大山隠岐国立公園鏡ヶ成保全再生協議会)、江府町(所有者)
面 積 25 ha
指定等 国立公園

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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メディア掲載

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