深入山

広島県最大の山焼き草原

夕陽に照らされるススキ草原と、西中国山地の山並み

草原の概要

西中国山地国定公園内の標高1,153mの深入山は、北側の斜面は森林に覆われているが、南斜面から東斜面の大部分は草原や疎林となっている。山頂は360度の展望が望め、島根県益田市方面の日本海や、広島県島しょ部の瀬戸内海も確認することができる。県内でも珍しい「草原の山」として登山愛好家などから人気が高い。

深入山は1969年に西中国山地国定公園として指定された。地質は流紋岩類からなる。山腹には所々に岩塊が見られ、その周辺には深層風化作用によってつくられた赤色土が広がっている。山頂部より、周氷河地形と考えられる構造土「ブロックストロ-ム」が発見されている。

昔から深入山は松原地区の農業には欠くことのできない山であった。牛馬の放牧場や草刈り山として、田植えが終わったら毎日のように草刈りがされていた。夏には牛馬の冬の飼料として干し草が何百束と刈られていた。春には雪解けとともに松原側全山を焼き払い、害虫駆除を行うと同時の草の茂りを促していた。以来、毎年4月に草原維持のための山焼きが行われている。現在、山焼きは町が主体となって行っている。

ワレモコウの花に産卵するゴマシジミ

今後の展望

毎年、前記の希少チョウ類調査目的でモニタリング調査が各種団体により行われており、多様な生物を育む環境保護のため、安芸太田町は自然公園法許可等で調査に協力している。

認定NPO法人西中国山地自然史研究会では、2021年より深入山に生息するガ類相の調査を実施している。その結果、11科45種のガ類を記録することができた。また、NPO法人三段峡-太田川流域研究会では、2018年より環境省の絶滅危惧IB類、広島県の絶滅危惧I類ゴマシジミ、中国地方・九州亜種の保全を目的として、ゴマシジミのモニタリング、ゴマシジミの食草であるワレモコウの保全、ゴマシジミの寄主であるハラクシケアリの調査等を行っている。その結果、今日まで少数ではあるがゴマシジミの生息を確認することができている。

町職員が山焼き隊を編成することとなったが、職員数も減少しており、ボランティアの協力など持続可能な体制を作る必要がある。

希少植物や昆虫等の盗掘、採取等が見受けられる。町で看板を設置し啓発活動を行ったが、保全等についてはさまざまな関係団体等の協力を得ないと実施できない。

山麓にある宿泊施設の「いこいの村ひろしま」の利用者減少など、深入山に来訪する観光客自体が減少しており、ここでないとできない体験を発掘しつつ、草原の山を維持していくことで「深入山」の魅力を発信していく必要がある。

1928年の山林統一整理の際、深入山は松原地区の共有林であったものを旧戸河内村へ無償提供された経緯がある。当時の住民にとっては、牛馬の放牧場や草刈り山として生活に欠かせない山であった。害虫駆除や草の茂りを促すための山焼きを永続的に行ってこられ、地域の住民は大切に守ってきた。生活様式も様変わりし、観光目的での山焼きを実施してきたが、今後は景観の保全、動植物など自然の宝庫をのちの世代に渡していくために実施していきたい。

草原の山を維持するため、今後も関係機関や団体等の協力をお願いしたい。

大勢の見物の中行なわれる山焼き

応募した理由

深入山は、1749年に山焼きを行ったという記録が残っており、古くはワラビ山や肥草山として利用するために行なわれ、1960年代頃まで放牧が行なわれてきた。人と自然が250年以上にわたって関わり、共生することによって草原の山としての景観が保たれていると考えている。

安芸太田町は山の所有者であり、自然を活かした観光を推進することへの責任として、深入山の保全と再生を行なっていくため、草原の里100選に登録し、この素晴らしい山を多くの方々に知っていただきたい。

(応募者:安芸太田町)

夏の青草に覆われた草原

選考委員のコメント

町田 怜子
町田 怜子

草原と人との長年のかかわりが丁寧に記述され印象に残りました。町職員による山焼き隊を中心にして、活動の輪がさらに広がることが期待されました。

高橋 佳孝
高橋 佳孝

管理主体が地元から町へ移ったのちも、行政が草原を維持する強い意思を持っており、草原管理の目的に観光だけでなく多面的な価値を認めている点は評価できます。また、山焼きの責任者が行政になったことによる地区住民の安心感も伺えます。
山焼き技術の伝承が大きな課題とされ、管理の担い手や支え手の確保に腐心されていると察しますが、外部からのボランティア参画の体制づくりに関しては、近隣の雲月山(北広島町)や三瓶山(島根県)、蒜山(岡山県)の取り組みが参考になると思います。
どこでもそうですが、高齢化や過疎化が進み、外部のステークホルダーを受け入れないと山焼きの継続がむずかしい時代背景の中、行政がイニシアチブをとりつつ管理者から受益者までの幅広いステークホルダーが参画する「実行委員会」や「協議会」のような体制作りも一考の価値があるかも知れません。

草原の情報

草原の里 深入山
所在地 広島県 安芸太田町
所有者 安芸太田町
管理者 安芸太田町(所有者)
面 積 100 ha
指定等 国定公園

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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メディア掲載

「草原の里100選」に島根・大田の三瓶山麓 中国地方は他に6カ所 | 中国新聞デジタル
 美しい草原風景を保全する地域や団体を顕彰する「未来に残したい草原の里100選」に、島根県大田市の三瓶山麓が選ばれた。減少傾向にある草原を次世代に引き継ごうと、全国の24市町村でつくる「全国草原の里市...