広陵学園芸北文化ランド茅場

「芸北茅プロジェクト」はじまりの草原

茅場での茅採取

草原の概要

広陵学園芸北文化ランド茅場は、1976年1月に開設された、学校法人広陵学園の校外施設「芸北文化ランド」内にある。芸北文化ランドは合宿施設とスキー場を併設する。スキーブームには大勢の利用者でにぎわったが、雪不足などにより、近年、スキー場は休業している。1986年にはりんご園が開設され、現在も特産品として出荷をしている。

スキー場コースとして利用されていた1.5haの斜面には、草丈1.5〜2.5mススキの草地が広がっている。もとは谷湿地があったと推察されるが、スキー場として整備された時期に、排水路が掘られた。茅採取を行っている場所には湿地は残っていないが、同じ敷地内の別の斜面には湿地が残されており、もとの生態系が維持されている。草原の周辺は落葉広葉樹の二次林で、コナラが優占する。

ゲレンデでは秋に草が刈り倒され、刈られた草がリンゴ園への堆肥として活用されてきたが、2015年からは、芸北中学校の生徒が芸北茅プロジェクトの学習フィールドとして、一部の茅を採取している。

数人で協力しながら茅を束ねる

今後の展望

芸北文化ランドの草原の活用と保全は表裏一体のものだ。この活動を続け、草原の価値を引き出すためには次の6つの側面から活動することが必要と考えている。

ひとつめは「品質」で、現場で茅を扱う茅葺き職人からアドバイスをいただき、茅の品質向上を目指し、ひいてはこのエリアでの茅が高額で取引されるような「藝州茅」のブランドを確立すること。

二つめは「供給」で、茅を刈る「刈り人さん」を増やし、地域で認知度を高め、安定的な茅の供給を目指すこと。

三つめは「管理」で、茅を保管する場所が狭いので、広く乾燥した倉庫を確保し、たくさんの茅を集めること。

四つめは「技術」で、茅葺き職人との交流を通じ、技術や知識を学ぶ機会を作ること。

五つめは「自然」の側面で、茅刈りによって維持される草原の生態系について調査し、モニタリングを継続すること。

そして最後に、これらをつなぐ「体制」として、産業にするために、組織と事務体制を強化すること。

2021年には「さとやま未来ツアー」としてツアーガイドの育成や、大学生を対象とした茅刈りツアープログラム作成の試行も実施した。今後は、ツアーの受け入れや体験活動の場の提供を通じて、芸北茅プロジェクトと連携し、より良い茅場になるように協力して、「ふるさと文化財の森」の維持に努めたい。

さとやま未来ツアーで茅を刈った大学生たちと

応募した理由

芸北茅プロジェクトは、経済、生態系、文化、教育の各方面に良い効果をもたらす活動だと考えている。活動に関わる関係者がその価値を理解するとともに、地域の中に広く理解者を増やすことで、草原の保全や茅の利用が地域のより広い場所で実施され、茅葺き屋根の再生が進むことを期待し、草原の里100選に応募した。

2018年には、当地の茅場が「ふるさと文化財の森(文化庁)」の76番目の認定地となり、認定証の交付式があった。今後も地域から必要とされる、品質の良い茅を提供できる茅場として、関係者とともに整備し、活用していきたい。

(応募者:認定NPO法人西中国山地自然史研究会)

藝州茅の出荷者には「せどやま券」が支払われる

選考委員のコメント

町田 怜子
町田 怜子

中学生や企業、大学などと連携した草原保全管理や、茅の地域循環の取組みはとても勉強になりました。「藝州茅」生産の場としての発信も期待されます。

高橋 佳孝
高橋 佳孝

豪雪地帯にあって、土地改変を免れたスキー場ゲレンデ跡の半自然草原が多様な生きものの保護や地域文化の継承を担っている優れた事例です。ゲレンデのススキ草原は茅刈り場としてよみがえり、「ふるさと文化財の森」として新しい価値付けがされ、同時に豊富な植物相も守られていきます。
茅の利用に関しては、茅刈りに参加する中学生たちが総合的な学習の中で実現した「芸北茅プロジェクト」の取り組みが印象に残りました。町内の茅資源が生み出す経済的価値を中学生たちが実際に動かして学んでいく仕組み作りは秀逸で、保護者世代や学校関係者も一緒に茅刈りや草原のことを学ぶことで事業としての継続性にも希望が持てそうです。生徒たちの主体性を育てていくとともに、直面する課題は大人たちが知恵や力を合わせて解決し、地域の恒例行事として定着するのを見守りたいと思います。「10年後には12歳から60歳までの大多数の住民が茅刈りを経験する」というシナリオが実現することを期待しています。

草原の情報

草原の里 芸北
所在地 広島県 北広島町
所有者 学校法人
管理者 所有者以外の団体
面 積 2 ha
指定等 ふるさと文化財の森、県さとやま未来大賞、博報賞

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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メディア掲載

「草原の里100選」に島根・大田の三瓶山麓 中国地方は他に6カ所 | 中国新聞デジタル
 美しい草原風景を保全する地域や団体を顕彰する「未来に残したい草原の里100選」に、島根県大田市の三瓶山麓が選ばれた。減少傾向にある草原を次世代に引き継ごうと、全国の24市町村でつくる「全国草原の里市...