日本最大のカルスト台地の草原
草原の概要
秋吉台の草原は、日本有数のカルスト台地秋吉台の上に広がる広大な半自然草地である。毎年2 月に行われる山焼きで草原環境が維持されている。江戸時代中期には台上がほぼ草原化し、牛馬の餌や田畑の肥料、薬草などを得るための場所であったが、農業や生活様式の変化にともなって草原の利用は減り、山焼きも景観を維持するものとして認識されるようになった。
カルスト台地の急斜面は森林に覆われている。その中を登ってきた観光客は、突然目の前に開ける広大な草原景観に驚嘆する。決して標高は高くないが、台地の上に位置するため、背景の山波も含め人工物がほとんど目に入らない。そして、山焼きの炎はもちろん、山焼き後の黒い地面と点在する白い石灰岩のコントラスト、夏の緑の草から見え隠れする石灰岩、チガヤの草紅葉、「焼山かくし」と呼ばれる山焼き後の雪景色など、季節ごとに特徴的な風景は絵画や写真の被写体として好まれてきた。最近は広い空間を活かしたCM 撮影などが増えている。さらに、ドリーネの密度も世界で類をみないものと言われており、特筆すべき景観である。
今後の展望
秋吉台独特の草原景観は主に山焼きにより維持されているが、火道切りや山焼きといった草原維持に携わる地元人口の減少が大きな課題である。作業の担い手として他地域の親戚等が参加する場合もあるが、経験不足や意思疎通の面から作業の安全性に懸念がある。2017 年の人身事故の後に、美祢市秋吉台山焼き対策協議会は「安全マニュアル」を策定し、安全管理の徹底を図っている。しかし、予算や人的資源の観点から山焼きの継続性を懸念する声は多い。
その他、遊歩道沿いの草刈りと動植物保護とのバランス、牧場跡地などでの外来植物繁茂、希少動植物の盗掘、ニホンジカの食害の増大、採草利用の低減とそれによるオキナグサなどの消失、トレイルランニングや自転車利用と自然保護との軋轢など、様々な課題も生じている。
草原の草資源の利用は減少しつつあるが、一方で秋吉台地域の伝統的な農業には草原での採草が組み込まれており、地理的表示(GI)保護制度の登録産品となった「美東ごぼう」生産でも草原の草は重要な役割を果たすなど、地元の生業を支える資源としての再評価も必要である。
秋吉台の草原は、地元の美祢市のみならず、山口県、さらには日本の宝であると自負している。美祢市は日本ジオパークとしての活動の中でも、草原を維持する「山焼き」やドリーネ畑、石灰岩や草原の草を利用してのごぼう栽培を重要要素として捉え、ジオツアーなどに活かしている。また、派手な観光事業ではなくても、草原の景観や動植物を好む人々が集まり、コミュニケーションの場としても機能している。秋吉台に集う自分たちにとって、秋吉台の草原が良い状態で維持されることが最も大事なことである。本会には地元住民はもちろん、市外の会員も多く、皆が持っている秋吉台のために何かしたいという思いを活かすにはどうすればいいか。また、自分たちの後の世代、特に子どもたちにも秋吉台の草原に愛着をもってもらうにはどうすればいいか。自然観察会の開催、保全活動や草原学習など団体としての活動は粛々と継続しながら、さらに先を見据えて、行政とも連携しながら、皆で草原の未来を考えていきたい。
応募した理由
秋吉台の草原は時代の流れによってその価値を変えてきた。かつては農業用の採草利用が中心だったが、現在は観光、レクリエーション、学習、癒やしなど、多様な価値観のもとで利用が進められている。しかし、利用者間や保護と利用の対立、さらに管理を担う地元住民と、恵みの享受者との乖離が進むなど問題も生じている。地元人口が減少する中、山焼きの継続性が懸念され、新たな担い手の確保が困難となっている。外部の支援を取り入れつつ山焼きを継続していく仕組みの模索も求められる。
多様な価値観のバランスをとりつつ、山焼きや採草利用といった地元の伝統技術を継承していくことが、秋吉台での共生型社会の実現に向けた課題である。これに取り組むには、地元で話し合うことはもちろん、他地域との情報共有も欠かせない。
今回、課題の洗い出しが話し合いに向けての現状整理になり、他地域との交流により課題解決への糸口を見つけられることを期待した。
(応募者:秋吉台の自然に親しむ会)
選考委員のコメント
学生時代に行ったことがあるが再び訪れたくなる場所です。
秋吉台地域の伝統的農業と草原とのかかわりを継承されており、応援したいと思いました。
博物館を持ち、専従の職員がいるという圧倒的なアドバンテージを活かして、確かな文化的、地史的あるいは生物学的評価に立脚してさまざまな活動が構築されています。広大な草原で生じる多種多様な問題にどう立ち向かっているのか、その試行錯誤に学びたいと思います。
草原の情報
草原の里 秋吉台
所在地 山口県 美祢市
所有者 美祢市ほか
管理者 美祢市(所有者)、所有者個人
面 積 1,138 ha
指定等 国定公園、国指定天然記念物、ラムサール条約湿地、日本ジオパーク、環境省重要里地里山
書籍のご紹介
より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。