大野ヶ原

高原の草原の中にある開拓集落の暮らし

溶食された石灰岩が草原の中に点在する「源氏ヶ駄馬」

草原の概要

愛媛県と高知県の県境、四国の中央部分の四国カルストの西端にある大野ヶ原は、日本三大カルスト地形のひとつで、全長25km、標高1,100~1,400mと、高さ・大きさともに日本一の規模を誇る。石灰岩が点在するカルスト台地の草原では、牛たちがのんびりと草を食む光景が広がる。過去には軍の演習地として使われ、第二次大戦中は軍馬の放牧地になっていた。

大野ヶ原は開拓前はブナの原生林が生い茂る場所であった。1948年に営農が始まってからも石灰岩の大地は水はけが良く水源確保が課題で、緑のダムとも言われる保水力の強いブナの原生林を一部に残し、大切な水源としている。

大野ヶ原は四国でも有数の放牧地帯として利用されている。ススキや高山植物がみられ、日本離れした牧歌的な景色を楽しめる。大野ヶ原の北側にはブナの原生林が広がっており、多くの高山植物も見られる。

すり鉢状のカルスト台地の草原の中に集落がある

今後の展望

茅採取は、道路に近い所や、クマザサや石灰岩の少ない所など、刈りやすいところを選んで刈っている。大野ヶ原は、茅を刈らないとクマザサが生える所が多く、古い茅も混じるため、茅場は1シーズンのうちにすべて刈り切る必要がある。茅場になりそうな未利用な草地も多数あるが、手刈りのため、10戸で管理できる規模としては今ある茅場が上限に近い。

茅の乾燥や土質の改良も、試行錯誤しながら当地区に向く方法を模索している。乾燥は、12月~2月はまだ茅の水分量が多いため、収穫した後にカビが生えないよう、倉庫に持ち帰りすべて広げて乾燥した後、束直しをするという丁寧な方法をとっている。大野ヶ原は、住民の結束が非常に高く、そのために酪農や茅採取という新しい産業の導入も円滑に進んできたと思われる。そして、地元に愛着を持つ2世、3世の後継者が育つ、若い世代も多い場所であり、大野ヶ原らしい今の草原の風景は、次世代に引き継がれていくと考えている。

草原の文化を継承する新しい試みとして、3年前から、大野ヶ原とその近隣地区で、茅葺きと茅採取を学ぶ市民向けのワークショップが開催されている。自ら茅を採取し、屋根を葺くという一連の生活技術を、昔の相互扶助のように市民が実践を通して学ぶプログラムである。大野ヶ原の人々は、その茅採取のワークショップの実習場所として、茅場を無償で提供している。大野ヶ原の近隣には、文化財を中心に茅葺きの建物がまだ一定数残っており、西予市教育委員会、茅葺き職人、茅葺き所有者、大野ヶ原住民、大学というさまざまな関係者が協力して試行できるようになったものである。大野ヶ原でススキを茅として出荷する試みが先に始まっており、すでに広大な茅場があったことが、こうしたプログラムの実践を後押しすることになった。

市民講座での茅葺きの茶堂の葺き替え

応募した理由

「人と自然の関わり」に焦点を当てた制度であったため、大野ヶ原がふさわしいと考えた。大野ヶ原は、愛媛と高知にまたがる景勝地四国カルストの中でも、人々が暮らす「生活の場」である点に特徴がある。大野ヶ原は、標高1,100〜1,400mの寒冷な高原で、戦後、1948年に営農が始まり、現在も19戸が生活している。草原を利用した、大野ヶ原の人々の現代の主な生業は、主に酪農と茅採取である。酪農は、大野ヶ原に1959年に導入された。広大な草原で飼料が自給でき、夏季も冷涼であることを活かしたものである。酪農家は現在5戸にまで減っているが、今も採草や放牧が続けられている。茅採取は、茅葺き用の茅不足を背景に近年開始したもので、10戸が刈り取りを行っている。共有地に自生していたススキを刈り始め、今では年間1万束前後を協力して出荷している。大野ヶ原には茅葺きの建物は無いため、茅はすべて京都または西予市の近隣集落に出荷している。すべて手刈りで、牧草の手入れや採草で鎌の扱いに慣れた年長者が収穫で活躍している。大野ヶ原は、戦後共同の茅場が無くなった近隣集落の人々が地元の茅葺き屋根の建物を葺き替えるため茅採取をしてきた場所でもある。変化しながらも、今も人と草原との関わりが続く当地区の「利用する草原」のことを、選定をきっかけに多くの人に知って頂きたいと考えた。

(応募者:西予市教育委員会)

放牧

選考委員のコメント

 

高橋 佳孝
高橋 佳孝

日本三大カルストの一つ「四国カルスト」に位置し、「天空へと続く草原」とも称される高標高地の石灰岩地に広がる草原として貴重な場所だと思います。茅葺き材の不足という現代的な課題解決のために茅の採取が再開され、経済の循環が生まれてきたこと、文化財の保全と草原の保全がリンクしている点が評価できます。茅採取のワークショップには多くの関係者が参画しており、近隣の茅葺き家屋との循環が実現出来そうですし、また、茅の品質を高める山焼きの技術導入・定着にも期待がもてます。茅採取のための刈り取りによって、ササが減り、健全なススキ草原に変わってきたと実感されている点も興味深いです。四国カルストの自然と景観は愛媛・高知の両県をまたがっており、高知県側(天狗高原:火入れ箇所もある)と管理や利用面での連携を図っていくことは出来ないでしょうか。

草原の情報

草原の里 大野ヶ原の草原
所在地 愛媛県 西予市
所有者
管理者 西予市の茶堂葺き替え団体(茅刈)
面 積 740 ha
指定等 県立自然公園、県指定鳥獣保護区、日本ジオパーク

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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