阿蘇・高森町の草原

野の花と風薫る阿蘇の奥座敷

らくだ山の奇岩と草原

草原の概要

高森町の草原は「牧野(ぼくや)」と呼ばれ、のどかにあか牛が放牧されている緑の草原は、南阿蘇を代表する景観として多くの人に親しまれている。2021年に実施された阿蘇草原維持再生基礎調査(熊本県)によれば、牧野の面積は658ha 、野焼き実施面積は469ha となっている。町内には14 の牧野組合があり、主に牛の放牧や採草に利用している。

本町は阿蘇カルデラ南部の南郷谷の東部に位置し、外輪山側は斜面が多いため小規模な草原が多い一方、中央火口丘側は比較的緩やかな斜面を有するため広い草原が維持されている。中央火口丘側は放牧による畜産、東外輪山上(山東原野)は採草+畜産・畑作が主体の草原が分布し、古くから地元の牧野組合や個人による多様な管理形態が存在し、現在も放牧、採草、野焼きという営みによって草原が維持されている。

また、山東原野にあるススキ草原は、カルデラ内の草原とは異なる地形をもち、窪地や低地は農業資材利用に、斜面地は屋根茅利用にする工夫がみられ、植林地と併存した独自の土地利用やそれらが作り出す景観にも特徴がある。

クララとオオルリシジミ

今後の展望

長年、放牧や採草、野焼きによって保全されてきた草原であるが、近年、管理をしている牧野組合員の高齢化等により、担い手の確保及び育成が困難な状況が続いているため、野焼きの実施が難しくなってきた。町として野焼きに係る補助金等で野焼き実施者の負担軽減等に取り組んでいるが、年々実施面積が減少しつつある。

この他にも未来の草原を引き継ぐ子供たちに阿蘇の草原の素晴らしさや草原の抱える現状について伝える草原学習が盛んであるが、その根幹にあるのが、これまで放牧や野焼きによって保全されてきた草原であるので、今回選定され、次世代の担い手が増えるよう、また多くの方々にこの草原の素晴らしさを知ってもらいたいと願う。

早春の野焼き

応募した理由

草原の里100 選の主旨である「草原にまつわる知識や技術を次世代に引き継ぎ、希望ある自然共存型の社会を作る」という目的は、高森町の草原にも合致すると考え、今回応募した。高森町の草原も、その自然、景観、文化を維持するため、長年にわたり地域の人々が農的営みの中で草原を利用・管理してきた。この草原を今後も残していくためにも、ぜひ登録していただき、草原の価値を広く知ってもらい、草原を守る人たちが増えていく契機となって欲しいと願っている。

(応募者:高森町)

子どもたちによる草小積み作り

選考委員のコメント

安藤 邦廣
安藤 邦廣

東外輪山上のススキは農業資材としての活用が盛んで、町内の茅葺き・茅採取の事業者は茅葺きの資材としても年間1万〜2万束を刈り取り、火入れの慣行も継続され、日本でも有数の良質な茅の生産地となっています。その茅が西日本一帯の文化財の茅葺き屋根を支えてくれているのです。茅刈りの作業には、地元の事業者に加えて近年は全国各地からの刈り手の受け入れを積極的にすすめ、茅の生産増をはかるだけでなく、ユネスコ無形文化遺産である「茅採取の技能」の継承にも大きく貢献しています。また、阿蘇外輪山の外側にあるススキ草原として、外輪山壁や中央火口丘とは異なる地形をもち、植林地とも共存した土地利用や景観も独特で風情があります。

町田 怜子
町田 怜子

阿蘇の草原の生物多様性が保全されている大変に貴重なエリアで、草原の里100選として高く評価しました。また地域の小中学校、ビジターセンターなどで、草原環境学習が長く継続されており、草原が地域の子どもたちの学びの場としても大切な場所になっている点も評価しました。

高橋 佳孝
高橋 佳孝

多様な立地の草原が存在し、利用形態も多彩な点が特徴です。草原には希少な動植物が生息・生育し、わが国の生物多様性保全の観点から極めて重要な地域です。畜産だけでなく、茅屋根材や野草堆肥の生産など野草の利活用を積極的に図り、草―畜-耕の循環型農業の取り組みが定着していることは他の地域の参考になります。林業が盛んで、森林と隣接する草原も多いため、延焼を防ぐ作業に労力を要するなど、維持管理上の難しさを抱えていますが、野焼きの負担軽減のため町独自の財政支援を実施している点は評価されます。さらに、熊本県や環境省による恒久防火帯の整備事業なども積極的に活用されていくことを期待します。高森町の草原は、利用の面からも自然環境の面からも重要性とポテンシャルが高く、生業による草の利活用と多様なメンバーによる環境保全の取り組みを今後も応援していきたい地域です。

草原の情報

草原の里 高森町
所在地 熊本県 高森町
所有者 高森町、地域住民
管理者 地元牧野組合
面 積 658 ha
指定等 国立公園、重要文化的景観、県指定天然記念物、世界ジオパーク、環境省重要里地里山、世界農業遺産

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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メディア掲載

「草原の里100選」に熊本県内7地域 阿蘇市や産山村など全国最多|熊本日日新聞社
 美しい日本の草原風景を顕彰する「未来に残したい草原の里100選」の第1回選定分が30日発表され、阿蘇市など21道県の34地域が選ばれた。全国草原の里市町村連絡協議会(静岡)の主催。このほか県内からは産山村と南阿蘇村、高森町、小国町、南小国