都井岬

黒潮洗う野生馬の草原

海原を背景に、野生の馬たちが草を食む

草原の概要

江戸時代初期に高鍋藩の秋月氏により藩営牧場が開設されて以来、日本在来馬「岬馬」の生息地として現代に続いている。しかしこれは、高鍋藩が藩の牧場として運営を開始した時期のことで、過去の文献からは16 世紀末頃にはすでに「御崎牧(みさきまき)」があったことが知られており、推古天皇に「馬ならば日向の駒」と謳われた宮崎県であることから、牧場としての土地利用はさらに古く遡る可能性もある。ノシバを中心とする火入れ草地が形成され、宮崎県南を代表する観光地で、草原を好む絶滅危惧植物種も多く生育している。都井岬は、国内では大変貴重な野生化馬と草原生態系を容易に観察することができる草原である。

岬馬は周年自由放牧・自然繁殖であるため、馬たちはハーレム群を形成し、迫力のある野生化馬の姿を間近にみせてくれる。青い海と緑の草原に、オキナグサなどの希少植物種、そして野生化馬のハーレム群を望める都井岬は、全国的にもとくに風致景観に優れ、他の追随を許さない魅力がある。

都井岬のオキナグサ

今後の展望

岬馬の草原管理能力は大きく、全域で毎日3〜4トン(生重)もの草を刈り取っているといわれる。しかし、馬が食べない不食草は残り、掃除刈りや野焼きなどの作業は必要である。馬の飼料費が不要なのは大きな利点ではあるが、草原の保全には人手が必要で、人にとっても岬馬が良い収入源にならねば活動は継続できないため、「野生化馬」という地域の宝に現代版の新たな価値付けをする必要がある。

また、地権者である都井御崎牧組合の機能を今後どうやって維持するかは喫緊の課題である。もっとも負担が大きい馬追いには、エコツアー等で外部からの参画も試みられているが、単に人を集めれば良いわけではなく、時期や天候により馬がどこにいるか、その群れを追えばどの獣道を通ってどこへ抜けるか、そのための人の配置をどうするか等は、地元の民俗知とも呼べるもので、地元でこそ継承されるべきである。外部参加者はあくまでその継承のサポーターであり、外部の参加が逆に地元の担い手意識を衰退させることがないように、それぞれが役割を果たしていく仕組み作りが重要である。

馬追いの当日は都井御崎牧組合が参加者の引率・指導を行い、終日の作業なので遠方からの参加者は宿泊もしていただける。馬を守る伝統作業の担い手には活気を与え、非日常の貴重な体験でコアなファンを獲得しつつ地域にはお金も落ちる。理想的な仕組みではあるが、ここ数年は新型コロナウイルスの影響で一般参加が中止されるなど、今も試行錯誤が続いている。

現在、岬馬そのものに産業的価値はなく、その保護には寄付金や助成金など外部の資金が充てられている。従来の保護だけを目的とする事業では将来先細る限界を感じている。担い手だけで背負い込むのではなく、外部にファンを育て、担い手と支え手が協働して守っていく「みんなの宝」としなければ後世には遺されない。そのために、現代における野生化馬の魅力をもっと深く掘り下げて活かす仕組みが必要で、都井岬ガイドや馬追いのエコツアーはその試金石である。その過程では、一部の研究者や保存会だけでなく、異分野も含めた社会全体で「遺したいね!」という共通認識を醸成することを目指している。

都井岬は、人の関与を最低限に保ちつつ遺されてきた独特の馬文化が体感できる草原で、奇跡的な価値を持つと考える。日本の馬文化の多様性の一役を担うものとして、野生化馬が現代に価値付けられ遺される可能性に、挑戦できる草原であると考えている。

エコツアー「野生馬ガイドツアー」

応募した理由

宮崎県串間市は優れた自然観光資源の宝庫で、とくに日南海岸国定公園に含まれる東部沿岸は南国の植物と青い海、白い砂浜が、南国情緒にあふれた素晴らしい景観を有し、その最南端に位置するのが都井岬である。

都井岬は串間市内でもっとも認知度の高い、地域を代表する草原景観である。国指定文化財「岬馬」の保存会である「都井御崎牧組合」が伝統的に草原の管理を担っているが、高齢化が著しく、60~70歳代が主体であり、保全活動は農林漁業との兼業である。この組合員が現在も主力として活動されていることには畏敬の念を抱くばかりだが、活動の継続が懸念される。

団体通過型の観光が主流であった時代には、素材として、海と馬の草原景観があるだけでも地域にお金が落ちていたが、今後は、現代版の新たな価値付けを試行し、後世に残す仕組みを作る必要があると感じている。その取り組みの1 つとして草原の里100 選に応募した。

(応募者:串間市教育委員会)

都井岬馬追い

選考委員のコメント

長沢 裕
長沢 裕

青い海を背景に野生の馬が草をはむ風景は一度見たら忘れられない思い出になることと思います。野生の馬が見られる場所があるとは知らなかったのでとても魅力に感じました。

町田 怜子
町田 怜子

馬と草原とのかかわりによる文化や伝統的農業を継承する草原として象徴的な草原で、アニマルツーリズムによるエコツアーも印象に残りました。

湯本 貴和
湯本 貴和

日本の在来馬文化の拠点として、他の草原にはない魅力があります。草原の維持と野生化馬の群れの維持という、ふたつの課題に取り組むとともに、その利活用について官民をあげて取り組む姿勢はたいへん高く評価できます。

草原の情報

草原の里 都井岬
所在地 宮崎県 串間市
所有者 牧組合
管理者 所有者団体
面 積 100 ha
指定等 国定公園、県指定鳥獣保護区、国指定天然記念物、環境省重要里地里山

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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