笠祇・古竹草原

さとやまに残る箱庭的な草原

市街地から車で約20分、森を抜けて突如ひらける草原の丘

草原の概要

都井岬と同様、江戸時代には馬が放牧されていた。明治以降は馬に代わって農耕牛が増え、放牧ではなく採草地として野焼きと草刈りが継続され、約 100 年にわたり「和牛の里」として野草地が守られてきた。現在では牛の餌としての刈取りと一部では放牧も行われている。絶滅危惧植物が多く見られ、宮崎県の「希少野生動植物重要生息地」にも指定されている。

串間市の中心市街地から車で 20 分ほどの近郊にあり、周囲は杉林に囲まれているが、集落に入ると突如、景観がひらけて茅類(チガヤ、ススキ等)の優占する丘が見られる。長閑な田園に茅の丘の配置がよろしく、日本の里山の魅力がコンパクトに集約された、まさに箱庭的な草原という景観である。集落内の里道は入り組んで高低差があり、車の通行も稀であるため、草原環境を眺めながら歩いて散策するには面白い環境となっている。

野焼きに参加する域外ボランティア

今後の展望

笠祇・古竹草原は、これまでまったく観光利用はされず、畜産業における草資源の利用も限定的であるため、草原の保全活動は地区住民の生活文化として継続されてきた。最近までは、野焼きボランティアやフットパス等の体験交流会も不定期に開催されていたが、地域のキーマンであった自治会長が亡くなったことを契機に、最近2 年間はボランティアもイベントも休止されている。古竹地区の草原では十分な野焼きが実施されず、竹類が繁茂しつつあるエリアがみられる。地域住民も、この自治会長の牽引があったから外部からの参加者を受け入れていた経緯もあり、今後また再開できるか将来を見通せない状況である。

草原の現代における新たな価値付けがされなければ、後世に残されない恐れがある。2018 年には、関西の茅葺き職人が訪れ、本地域のチガヤが東南アジアのものと似ていて丈が長く良質で、かつて温暖な地域で用いられていた屋根の材料に使用できるとのことで、試験的に採集された。今後、このような伝統的な茅葺き技術の伝承に役立つということになれば、新たな利活用につながる可能性もある。

現在は休止されているが、域外からの人の受け入れで保全活動が継続され、それが地域住民にも刺激となって、かつ地域にお金も落ちるような仕組み作りが必要と考えている。地域の交流の場であった小学校が休校となったことは大きな出来事である。今後は、小学校に代わって草原環境が地域交流の場として価値付けされることも可能性があると考える。

草原の里100選への登録が新たな価値付けとなり、地域住民の誇りとなって、取り組みが促進される契機となることを期待する。

草原の山菜料理で交流会

応募した理由

笠祇・古竹草原は、串間市の中心市街地から車で 20 分の近郊にあり、山林に囲まれた奥地に突如として出現する箱庭的な里山環境である。地域外の人間にとっては、魅力的で身近な里山であるが、市民でも知られている情報は少なく、その魅力や価値が十分には啓発されていない。茅の丘は直登すれば 10〜15 分程度で頂上に到達できる低さであるものの、里道が複雑に入り組んで立体的な高低差があり、フットパス等で散策するには非常に可能性のある草原環境となっている。都井岬に比べれば認知度は低いものの、いわゆる観光地化されていない農村集落のコアな魅力と可能性を秘めている。

笠祇・古竹地区は約60戸の集落であり、和牛の里として知られ、牛の採草地として伝統的な草原利用がされてきたが、2016年には小学校が休校となり過疎・高齢化が深刻となっている。この草原を後世に遺すため、現代における新たな価値付けとして様々な可能性を考える上で、草原の里100 選への登録を考えた。

(応募者:串間市教育委員会)

暖地の屋根材として試験採取されたカヤ材

選考委員のコメント

長沢 裕
長沢 裕

魅力的な草原と感じました。草原の利用について存続が危ぶまれている現状を感じました。100選に選ばれることで存続の契機に、との期待を大切にしたいです。

湯本 貴和
湯本 貴和

歴史文化的な価値や希少動植物の生息地としての価値の自己評価もあり、これまで地区住民の生活文化として保全活動が継続されてきた実績もあります。キーパーソンがお亡くなりになったこと、コロナで活動が休止していることは極めて残念ですが、草原の里に選定されることで活動を再開できるのではないでしょうか。

高橋 佳孝
高橋 佳孝

全国どこでも、田畑や集落に隣接する草原環境が高齢化などで人知れず消えていく中、暮らしの中で草資源の利用と循環をひたむきに残してきた点が高く評価できます。また、そのことが極めて保全価値の高い草原生態系と貴重な生き物を守ってきたことを教えてくれます。厳しい状況下ですが、地元や自治体では草原の活用策の開拓や交流促進による解決策を模索しており、住民が誇りを感じる取り組みが再開されるよう応援したいと思いました。

草原の情報

草原の里 笠祇・古竹草原
所在地 宮崎県 串間市
所有者 地区共有地
管理者 所有者団体
面 積 17 ha
指定等 環境省重要里地里山、県希少野生動植物重要生息地

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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