川南湿原植物群落

尾鈴山の恵みが育む草原

川南湿原の全景

草原の概要

川南湿原は、川南町のほぼ中央部の新橋地区の、国道10号線から程近く、標高50m 前後の場所にある。面積は約3.3haで、新橋溜池から東に植物群落が広がっている。1974年に国指定天然記念物に指定されており、植物の種類は78科298分類で、そのうち湿性植物が約110種類、うち約50種類が希少植物である。

現在の川南湿原のエリアには、遅くとも約8,000年前頃には湿生植物が進入してきたと考えられており、気候の変動や、火山灰の降灰にもよく耐えた。約1,000年前には周辺地域で稲作が行われ、その後も人類の開発行為による周辺環境の変化や気候の変動の影響を受けて、湿原面積の増減や植物種の盛衰を繰り返しながら、現在の川南湿原の姿に近づいていった。

1953年、1965~1966年には本格的な植生調査が行われ、湿原植物群落としての重要性が認識されるようになった。1989年頃には新橋溜池の水面も見えなくなるほど富栄養化が進み、このままでは滅失の危険性が高かったため保護を目的に1995年度から2010年度にかけて整備を行った。現在、湿原環境の改善も進んでおり、様々な湿原植物の増殖及び復活が確認されている。

川南湿原は市街地に位置する湿原であり、自然と人の営みが調和する素晴らしい湿原となっている。面積は決して広くはないが、多様な生態系がコンパクトにまとまった湿原であると言える。

約50年ぶりに復活したヒュウガホシクサ

今後の展望

川南湿原内の水は九州山地の尾鈴山を源とする湧水であり、その量は毎秒15リットルである。多くの湿生植物が生息しているという環境下で、水は必要不可欠なものであるが、当湿原は市街地の中に立地しており、それだけ開発の影響を受けやすいというデメリットがあり、その水量も年々減少している。さらに、水質の悪い水が流れ込むと、富栄養化が進み、池に水草が繁殖して他の植物の生育を阻害するなど、湿原全体に悪影響を及ぼす。人間の営みと植物たちの生育環境の改善を両立させていくことが一つの課題であると感じている。

また、川南湿原の管理は、ボランティア団体「川南湿原を守る会」に委託しているが、会員の高齢化が進み、草刈り作業などの日常管理が難しくなっている。草刈り作業も、ただ刈ればよいというものではなく、希少植物の良好な生育のために、どの範囲を、どの時期に、どれだけ刈るか、といった非常に細かい配慮が必要であり、こうしたノウハウは一朝一夕に身に付けられるものではない。早い段階から守る会に加入してそのノウハウを身につけていただくなど、知識と技術の継承が急務となっている。

川南湿原では、日常的に植物等の管理をしている地元守る会の方々や、愛知教育大学や東京農業大学の先生方に積極的に関わっていただき、希少植物の保護、さらには新種の発見など、その生態系は着実に改善されてきた。しかし、川南湿原の生命線ともいえる湧水量の減少など、植物は常に消滅の危機にさらされている。現在守られている川南湿原の生態系を今後も維持できるよう、行政と地域、そして専門家が一体となって保護し続けていくことが重要である。

現在は、町の小中学校における郷土学習や環境学習、さらには生涯学習講座など、世代を問わず様々な方々に川南湿原の魅力と、自然を守ることの大切さを学ぶ場として活用いただいている。今後も、町外の方や県外の方々にも広く訪れていただけるよう、環境保全活動と並行して、広報活動にも力を入れていきたいと考えている。

川南湿原を守る会による植物の説明

応募した理由

川南湿原植物群落は、2010年に一般開放される以前は、誰も立ち入らないような草地であった。そのような中、数少ない関係者が、希少植物の存在に気付き、声を上げたことによって、誰でも自然に触れられることのできる場所へと変わっていった。

川南湿原の価値は、珍しい動植物があるということだけでなく、それを守ろうとする人々の存在にも大きく関係している。「未来に残したい草原の里100選」に選定されることにより、川南町という小さな町に、自然の恵みをいっぱいに受けた動植物たちの姿を見られる素晴らしい湿原があることを、多くの人に知っていただけるのではないかと考えた。

また近年は、町外や県外からの来訪者も増えており、川南湿原とそれを涵養する地下水の価値をより幅広く理解してもらうことで、様々な保全活動へのボランティア参加など、取り組みへの共感や賛同が大きく広がると考え、今回応募した。

(応募者:川南湿原を守る会)

川南湿原を守る会による草刈り

選考委員のコメント

町田 怜子
町田 怜子

川南湿原の生物多様性の場としての重要性、行政と地域、そして専門家が一体となった保全活動が印象に残りました。

高橋 佳孝
高橋 佳孝

市街地に残されたオアシス的な自然環境は、その地域の本来の自然と人の関わりを映し出す貴重な場所であり、今は、次世代に残したいという熱意をもった地域の人々の手で守り育てられています。希少な動植物や生態系を守り継ぐことだけでなく、上流部からの地下水に依存しているこの湿原の大切さとそれにふさわしい暮らしのあり方を学ぶ場として活用して欲しいです。

草原の情報

草原の里 川南町
所在地 宮崎県 川南町
所有者 川南町
管理者 川南町(所有者)、所有者以外の団体
面 積 3.3 ha
指定等 国指定天然記念物

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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