安比高原・遊々の森

自然・人・馬が「千年草原」を未来へつなぐ

1000年の草原に咲くレンゲツツジ

草原の概要

安比高原は岩手県北部八幡平市の標高 830m〜950mに位置する。古くから馬産地として名を馳せ、1,000年以上もの長期にわたりブナ林に囲まれた良好な天然シバ草原の景観を保ってきた。1960 年代以降の放牧中止を境にヤマザクラやダケカンバ、ヤナギやズミ、レンゲツツジなどが繁茂し、草地の衰退が進行していた。2015年からは、はたらく馬の普及に取り組む若者たちと連携し、在来馬を放牧し、シバ草原と馬文化の保全・再生が開始された。馬が草原でくつろぐ姿は安比高原の風景として親しまれている。

現在、80ha の草原が「中のまきば」「焼野のまきば」「奥のまきば」と呼ばれる3 箇所に分かれて残されている。最も低標高域にあり、高原の玄関的なメインエリアである「中のまきば」では馬の放牧再開によるレンゲツツジとシバ草原の再生やオキナグサの再生が顕著であり、昔ながらの草原景観がみられる。中標高域の「焼野のまきば」は、ススキと灌木が覆う草原で、ヤナギランが多く自生する。域内で最高の標高域にある「奥のまきば」には池塘が点在し、リンドウが自生する。このように1か所で様々な景観が楽しめるのも安比高原の魅力である。なお、これらの草原は、隣接するブナ二次林と合わせて、地域の観光資源であるとともに、エリア一帯は市の水源としても重要な役割を担っている。

中のまきばの放牧区画で草原化に貢献する馬たち

今後の展望

やってみてわかることであるが、自然の増殖力は意外とたくましいものであり、人が力を抜くと増殖が勝ってしまうので、復元や維持には力や資金が必須である。

広大な領域での環境維持には、人力の結集が不可欠であるが、多くの人は生業が優先し、活動参画のための時間確保が難しい。こうしたことから本来あるべき地元有志の参画が低調に推移し、次世代へつなげる体制が出来ていない。人の参画が無く、資金がなければ活動の成果は得にくくなり、ボランティアのみによる草原復元活動は限界に直面している。

かつては南部駒の生産が南部藩の財政を支える生業であり、その後も軍馬育成所として、あるいは短角牛放牧の場として、1,000 年以上の人と自然との関わりが半自然草原の里山生態系を維持してきた。今後、放牧による関わりに多くは期待できないとしても、多様化する社会の中で人と自然との関わり方を見直し、エネルギーや紙資源を含めた循環型社会を改めて創造する時代を迎えている中で、草原の新たな活用と事業化に向けた取り組みが必要と考える。

地元や移住者を受け入れて次世代後継者の確保に繋げるため、里山での産品開発と消費開拓、観光誘致による収入確保などが生業となり得るのか研究したい。100 年先を見据えて維持管理を行うためには、これまでの発想とは異なる新たなビジネスモデルを構築する必要があるが、安比高原の半自然草原とブナの二次林はそうした持続可能な社会へのヒントとなる里山文化の生態系であると考える。

一般来場者を対象とした馬とのふれあいイベンント

応募した理由

安比高原の歴史は、1,000年ほど前の奈良・平安時代(8世紀〜12世紀)から蝦夷馬の産地として開かれてきたといわれている。1960年代ごろまでは地域住民が盛んに馬の放牧を行い、森に囲まれた美しい草原が広がっていた。1970年代以降牛馬の放牧が減り始め、そのため草原は藪化及び森林化が急速に進み、草原が減少していった。現在ではこの美しい草原を維持再生し、また草原を利用する馬の放牧にも取り組み、人と馬が作り出す草原文化を再興しつつある。こうした歴史文化的価値を有する草原の独特な生態系は、訪れる人々を癒し、健康を育む場としても活用される。

地域の人々がこの地の活動を理解し、歴史認識を新たにする機会になればと期待し、草原の里100選に応募した。さらに応募をきっかけに関心が高まり、この自然環境を保全するには様々な活動が必要なものであると知ってもらい、多くの人にこの土地の美しさや文化の豊かさを伝えたいと考えている。

(応募者:安比高原ふるさと倶楽部)

活動を周知する機会ともなる晩秋の野焼きイベント

選考委員のコメント

河野 博子
河野 博子

牛や馬をめぐっては全国的に厳しい状況にあります。それを乗り越えようという取り組みを応援します。

高橋 佳孝
高橋 佳孝

牛馬の放牧は伝統的な日本の畜産文化です。かつては南部駒が放牧され、その後短角牛が放牧されましたが、牛馬がいなくなった場所は森林に遷移してしまいました。馬は風景の要素となり、癒しの動物でもあります。馬の放牧に新しい価値付けをしながら、人と馬の共同作業によって草原を残していく方法を探る道もあるのではないかと大きな期待が持たれます。

長沢 裕
長沢 裕

安比高原には幼い頃に家族でスキーに行った思い出があります。景観が素晴らしく、1,000 年以上もの牛馬放牧の歴史があるところも強い魅力だと感じました。また、100 年先を見据えて計画する必要性と共に新たなビジネスモデルを検討する姿勢に感銘を受けました。私は福島県出身ですが同じ東北勢としてぜひこれからも安比高原を訪れていきたいです。

町田 怜子
町田 怜子

牛馬と人と草原とのかかわり、その文化を発信できる草原としてとても応援しています。馬と草原とかかわり、その文化が地域経済に展開することを期待しています。

草原の情報

応募者 安比高原ふるさと倶楽部
所在地 岩手県 八幡平市
所有者 林野庁 東北森林管理局 岩手北部森林管理署
管理者 林野庁 東北森林管理局 岩手北部森林管理署、その他
面 積 80ha

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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