鋏山

刈安なびく天空の草原

草原の概要

鋏山は南会津町の藤生地区の西に位置し、標高約1,150mの山である。麓から見ると鋏のようなシルエットのため、鋏山という名前が付けられたという。山頂の北部から南東にかけて広がる草原は、約90haの面積を有し、昔から茅場や採草地、放牧等に利用されてきており、現在も藤生地区の住民により管理され、観光ワラビ園等として利用されている。

麓から山頂近くまで舗装された林道が整備されており、山菜の採取や遊山、作業等にも大変利便性が高く、山頂近くまで乗用車で上がれ駐車場も確保されている。

山頂の急斜面から緩斜面に広がる草原は、春には山焼きで焼かれ真っ黒に色づき、夏は緑の絨毯に、秋には草紅葉で黄金色に輝き、冬には雪で真っ白に色づくなど、四季の変化に応じた表情を見せる。

特に秋の草紅葉は圧巻で、金色(こんじき)色の草原は、あの有名なジブリのアニメのワンシーンを思い起こさせる。近くには、ブナ林やシラカバ林もあり、新緑と木肌の白さが織りなす光景には山の息吹が感じられ、草原を一段と際立たせている。

北から東にかけて開けた遠望も素晴らしく、遠くには甲子岳や茶臼岳をはじめとする雄大な那須連峰の山並みを望むことができる。

今後の展望

草原に生育する山野草の中には、減少傾向にある種もあり、実態の把握や原因の究明が必要となっている。

また、「観光わらび園」の運営に関しても、東日本大震災以降、年々入園者数が減少しており、さらにコロナ禍が追いうちをかけ、2022年まで3年間、休園する事態となった。2023年より再開したが入園者数が伸び悩むなど、維持管理費の捻出が課題となっている。

さらに、地区住民も高齢化しており、わらび園を維持するための人材不足も深刻となっている。

草原の管理として行っている山焼きでは、年々参加者が減ってきているが、大切な文化でもあるので、地元の若手に作業手法等を伝えていくとともに、ボランティアの育成等も検討していきたいと考えている。

そのような状況から、草原のレジャー等での新たな利活用や豊富に自生する刈安や茅の利活用についても現在検討している段階である。

ただ、多くの課題はあるものの、鋏山に広がる草原の規模や景観の素晴らしさは、福島県内においては他に類を見ないもので、貴重な地域の財産であり、多くの利用価値を秘めている。

たとえば、「草原からの雄大な景色や撮影を楽しむもよし。新鮮な空気を吸い、心をリフレッシュするもよし。キャンプや星空観察をするのもよし。そして、山菜を楽しむのもよし」等など、都会では味わえない素晴らしい体験ができる場所だと自負している。

近くには宿泊施設を完備したオートキャンプ場などもあり、ぜひ、多くの人々にお越し頂き、素晴らしさを肌で感じてもらうとともに、お出でになった方々との交流を通して、地域や町の活性化を図って行きたいと思う。

今後は、このふるさとの草原に愛称等を付けて、末永く多くの人々に愛される草原にしていきたいと考えている。

応募した理由

福島県南会津町の藤生地区では、地区内のにおいて古くから山焼きが行われており、歴史的に価値のある行事と認められ、2020年度に「藤生鋏山の山焼き」として南会津町の重要無形民俗文化財に指定されている。

山焼きは毎年5月3日、地区総出の行事として、70〜80人の地区住民が参加して行われており、広大な草原を短時間で焼き尽くす手際の良さや斜面を駆け上がる炎の勢いはすさまじく、その作業の様子は一見の価値がある。

山焼後はワラビや山菜等が収穫期を迎えるころから、草原全部を「観光ワラビ園」として有料で開放し、地域の活性化につなげている。

このような地区一丸となった圧巻の山焼きや草原の活用状況、及び雄大な草原の景観の素晴らしさを、草原の里100選をきっかけとして県内外の多くの人に知っていただくとともに、当地に来訪いただき、地区の住民と交流していただくことで、さらなる地域や町の活性化につなげたい。

(応募者:)

選考委員のコメント

安藤 邦廣
安藤 邦廣

標高の高いところに残る傾向があるカリヤスの茅場は絶滅の危機にあります。茅葺き民家の保存活用が進む中で、カリヤスの茅が刈り取られることは、茅葺き屋根にとっても、地元住民にとっても貴重な資源といえます。

河野 博子
河野 博子

単純に鋏山わらび園のわらびを食べてみたいし、ぜひ訪ねてみたい場所です。山焼きの継続には地元の人々の力が大きく、茅資源の利用など新たな取組みへの姿勢も感じられます。

長沢 裕
長沢 裕

私は福島県の伊達市出身なので、福島からの応募にとても心躍りました。鋏山はまだ行った事がないので是非とも訪れたいと思います。わらび園として活用しながら、山焼きも継続されているという事で文化の継承という面でもとても素晴らしいと感じました。県内の人でもまだまだ知らない方も多いと思うので、私もこれから深く理解して、広めたいと思います。

草原の情報

応募者 南会津町藤生区
所在地 福島県 南会津町
所有者 南会津町
管理者 行政(所有者以外)
面 積 90ha
指定等  町指定文化財 

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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