田島ケ原サクラソウ自生地

日本初の天然記念物指定地

サクラソウが見頃の田島ケ原サクラソウ自生地

草原の概要

田島ケ原サクラソウ自生地は、荒川流域に広がっており、国指定の特別天然記念物に指定されている。1919年に日本で初めて天然記念物として指定されたものの一つで、そののち特別天然記念物に指定された。なお、埼玉県の花、さいたま市の花はサクラソウが選ばれているが、ともに当地にサクラソウが自生することに因んでいる。

自生地の面積は約4.12ha で、荒川左岸の荒川低地と呼ばれる沖積低地の中の後背湿地に存在している。後背湿地は大規模な国土開発以前は、水田やオギ・ヨシの原野、沼沢地となることが多い場所であった。

自生地には、サクラソウ以外にも希少な植物が多く分布しており、季節によって見られる生き物が移り変わっていく。例えば春にノウルシが一面に群生し黄色い群落を形成している様子は、サクラソウが形成する薄紅色の群落と合わせて、今日では稀有な景観である。

また、夏以降オギ・ヨシが伸長し、明るい草地であった当地が丈の高い草地に変わっていく。散策路からは、オギ・ヨシに覆われた下部の植生や、散策路沿いの明るい場所、つる植物の様子など、それぞれ異なった植物の様子が観察でき、オギ・ヨシ群落の構造を見ることができる。背が高く密集したオギ・ヨシ群落の内部を観察する場所は他の地域では困難なことも多いが散策路があることで当地では観察可能であり、希少な植物を観察することができることから、この様子も特徴的な景観の一つといえる。

夕日にオギの白い穂が輝く

今後の展望

環境の変化や遷移の進行など、様々な懸念点があるが、それらの対策を行っていくうえで感じている主な課題は、草原に多様な生物が現存する価値が、一般の人に伝わりにくく、どうしても希少種などが注目され、大事にされやすいという点である。

象徴種といった考え方があり、これら目立つ重要な種の保全が、多数の生物の保全につながるということは納得できるところであるが、一般には、これらの目立つものだけがその場所の価値であるかのように認識されてしまうことは、大きな課題であると感じている。

この認識が根底となり、希少な種に偏重した対策が取られていることで、対策すべき課題が見えにくくなったり、十分な対策が行われない可能性があると考えられる。

当地の展望として、天然記念物サクラソウの安定した持続的な生育を維持していきたい。

そのうえで、サクラソウ以外の生物についても手厚い保全が行われるよう進めていければと思う。今までの調査で、旧来の当地の環境は、現在の環境と異なっていること、現在では見られなくなった植物も存在することが分かっている。今後、できる限り環境を旧来に近づけることで自然環境の再現を行うことができればと考えている。

また、現在はごく限られた用途の利用だが、当地はどう活用が可能か、従来の利用に縛られずに検討していき、それが当地の安定的な維持をもたらす仕組みにつながっていければと考えている。

当地は、天然記念物に指定されて100年が経過している。当時指定に向けて尽力した三好学博士や地元住民の意思を次の100年に引き継いでいきたいと考えている。

新春に行う草焼き

応募した理由

当地はサクラソウ自生地として著名で春には多くの人が訪れるが、サクラソウの減少や、自生地の周辺環境の変化など、様々な変化にさらされ危機を迎えている。当地の存続のために様々な方策を行っていく必要があるが、まず当地の存在を認知してもらう必要があると考え応募した。

また当地は、都市近郊の整備された公園の内部に存在し、人間の管理下にある公園緑地の一つとして認識されることもあり、草原の里100 選で挙げられているような、「人間の活動と自然環境の調和」が重要な場所といえる。長年にわたり、市民と深くかかわりながら維持されてきた貴重な場所であることを多くの人に知ってほしいと考えている。

加えて当地には、サクラソウ以外にも多数の生物が存在し、貴重な生態系が築かれていることから、草原(湿原)という広い枠組みの中で、そのような面にも注目していただきたい。

(応募者:さいたま市)

管理作業員による外来植物等の除去作業

選考委員のコメント

河野 博子
河野 博子

天然記念物第一号のサクラソウをはじめ、大都市内の河川敷の生態系をぜひ見てみたいです。河川敷の生態系保全と利用は重要と考えています。

長沢 裕
長沢 裕

景勝地としてはもちろん、人間活動と自然環境の調和という点でも市民にとって重要地である事を意識した展開を考えておられ、大都市の中にある草原としてとても意義のある役割を担う場所だと感じました。サクラと同じようにこれからの春にはサクラソウを愛でる楽しみも加えていきたいと思いました。

町田 怜子
町田 怜子

これからの100年に向け、草原の里として地域の皆さん、ボランティアの皆さんを応援していきたいと思いました。首都圏の中にサクラソウ自生地があることはとても価値があります。

湯本 貴和
湯本 貴和

天然記念物でサクラソウの繁殖生態に関する研究蓄積も多いところなので、送粉昆虫ともども維持していっていただきたいです。送粉昆虫の餌資源を考えることによって、サクラソウ以外の植物の重要性にも目がいくのではないかと期待します。サクラソウだけではなく、周辺の植物やハチなど送粉昆虫も同時に保全していくことが大事です。

草原の情報

応募者 さいたま市
所在地 埼玉県 さいたま市
所有者 さいたま市
管理者 さいたま市
面 積 4.12ha
指定等  国指定特別天然記念物 

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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