五箇山相倉茅場

世界遺産の屋根材を育む草原

扇形に干されるカリヤス

草原の概要

相倉集落の屋根材となる茅を得るために管理されている茅場としての草原である。近年になり休耕地を利用し造成したものもあるが、古いものは相倉集落西側に広がる雪持林と呼ばれる雪崩防止用の保護林の更に背後の山地に点在する。相倉集落自体は庄川の左岸の川面よりやや高く離れた河岸段丘面に位置する。

集落背後に広がる雪持林にはブナ・トチノキ・ミズナラ・ケヤキ等の大木が生い茂っており、草原の大部分はそのさらに奥の山地中腹の急斜面に位置する。冷温帯落葉広葉樹林帯に広がる多様な落葉広葉樹林やスギ植林などの森林と合わせモザイク状に配置されている。大きな一つの茅場があるわけではなく、森林や境木で区切られた小規模な茅場が数多く集まり茅場一帯を形成していることは、相倉集落が集落単位ではなく家単位で茅場を所有し管理し続けてきたことに起因する。

家屋や耕作地などの「集落」、集落を雪崩から守る「雪持林」、茅場や薪採集地等の「山」、という土地利用形態は、日本有数の豪雪地である五箇山に特有の集落構造を示している。

茅場下草刈り

今後の展望

茅刈作業が10月20日頃〜11月10日頃に行なわれる季節集中労働のため、作業員確保が困難となっている。五箇山住民以外の人材確保先がシルバー人材などに限定される傾向にあるのに対し、茅刈りには毎年経験を積み上げて得られる熟練の技術が必要であるが、派遣人材は若手の人員変動が激しく熟度の高い作業員の確保が困難であるのに加え、往年の作業人員が高齢を理由に引退していく流れが恒常化しており、茅刈り作業の将来的継続への大きな課題である。相倉集落の茅刈り作業の担い手育成としては、親に習いながら自家茅場に携わる当相倉集落の若手住民をはじめ、集落保存財団の遺産地域保存活動としての茅刈り作業への呼びかけに応じ参加してくれる協力者への期待が大きい。協力者の内数名は他県から作業応援に訪れ、住み込みで数日間従事いただける常連協力者となっている。

相倉集落が世界に向け大きく誇れる点は、集落内の住民所有の家屋15棟が全て相倉産のカリヤスで葺かれている点である。茅の、しかもカリヤスの自給自足・地産地消を実践している集落という点に相倉集落の唯一性・普遍性がある。

当地にとって茅場の維持管理及び次世代への継承は、国指定史跡としての茅場保全という意味と並行し、当地が「人の住まう史跡」「生きた世界遺産」と称されるように茅葺き家屋は今なお住環境であり、その屋根材料の自給自足・健全的保全という意味も含んでいる。茅場の保全とその継承者の育成を常にセットの課題と捉え、今後も「草原」の重要性を多方面へ発信し、その普遍的価値への理解を得ながら健全的保全に取り組んでいきたい。

集落内造成茅場での、地元高校生の茅刈り体験

応募した理由

先人の暮らしの中から必然的に生み出され管理され続けてきた歴史ある茅場を、屋根材の供給草原として古くより維持継承してきた五箇山相倉合掌造り集落は、1970年には茅場を含む集落全体を網羅する広大な範囲が国指定史跡となり、以後人々の暮らしの中で良好な状態で保存され、1995年には「合掌造り集落」として世界文化遺産登録を受けるに至った。

しかし今を生きる人々にとって茅葺きの家屋とその屋根材確保のための茅場を維持していく必然性はなく、合掌造り家屋が文化財でなければ茅場を維持していくことはできないであろう。事実、周辺地域では文化財登録されていない茅葺き家屋はほぼ消失している。

生活の一部として茅場を維持してきた先人の想い、史跡指定に尽力された先人の想い、それを受け継ぎ守ってきた人々の想い。それらを顕彰し未来の関係者へ向けエールを送ると同時に、他所の草原関係各位と智慧を出し合い諸課題の解決へ繋げていけるものと期待する。

(応募者:相倉史跡保存顕彰会)

畑に敷くため積まれた古茅

選考委員のコメント

安藤 邦廣
安藤 邦廣

世界遺産合掌造り集落を維持するために長く利用・維持されてきたカリヤスの茅場は、その自然環境のみならず、文化的景観としての価値も高いです。顕彰会を中心に茅の採取や茅場の維持管理の体制や仕組みが整備され、後継者の育成にも取り組んでいます。そもそも採取したカリヤスは、合掌造りの雪囲い、屋根葺き材料、そして養蚕の桑畑の肥料としてカスケード利用されていたことに特徴があります。養蚕業が衰退した今日においても、肥料として良質な農産物の生産につなげ、茅のカスケード利用が持続されている点は高く評価できます。

町田 怜子
町田 怜子

カリヤスの茅場と合掌集落とのつながりが読み取れる草原文化が残る相倉にぜひ行ってみたいです!伝統素材であるカリヤスの茅を地元で産出し、地産地消している仕組みは、とても興味があり期待しています。

湯本 貴和
湯本 貴和

世界遺産の合掌造り集落の茅葺屋根を支えるべき茅場で、その維持をぜひ期待したいところです。環境省が募集しているOECMへの応募も視野に入れていただきたいです。

草原の情報

応募者 相倉史跡保存顕彰会
所在地 富山県 南栃市
所有者 個人
管理者 民間団体(所有者以外)、民間の個人(所有者)
面 積 4.9ha
指定等 県立自然公園、ふるさと文化財の森、世界遺産 国指定史跡、ユネスコエコパーク

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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