菅平高原・峰の原高原

北アルプスを望む百名山の草原

北アルプスの北端から南端まで一望できる草原

草原の概要

花の百名山・根子岳(標高2,207m)と百名山・(標高2,354m)から標高約1,270 mにかけての西面〜南面方向に緩やかな斜面が広がり、上田市側が菅平高原、須坂市側が峰の原高原と呼ばれている。菅平高原は、根子岳・太郎山・大松山・ツバクロ山に囲まれた盆地上の地形をなす。根子岳・四阿山の山頂を含む菅平高原・峰の原高原ほぼ全域が、1947年の空中写真やそれ以前の国土地理院地形図では一続きの連続した草原であったことが確認できる。菅平高原では1722年の古地図においてもほぼ全域が草原であり、また、黒ボク土の放射性炭素同位体の年代測定によっても4300年前から草原が続いていたと推定されている。1949年には上信越高原国立公園に指定され、国立公園の管理計画書では草原生態系の保全が掲げられているが、国立公園指定時の草原の70%以上、100年前の草原の90%以上がすでに消失した。現在は、根子岳・四阿山の標高2,000m以上はササ藪、それ以下の標高ではダケカンバ林・シラカバ林・アカマツ林・カラマツ林等の森林化が進んでおり、その中に牧場・スキー場等の約550 haの草原が断片化して分布しており、放牧地・採草地などの牧場、スキー場、ランニング路、遊歩道、キャンプ場、研究・教育場所等として利用・管理されている。そのうち国有林等を除く約502 haの面積を対象に本申請を行う。冬季には70 cmを超す積雪がある。北アルプス、北信五岳、浅間山、八ヶ岳などの眺望が良い。

かつては根子岳山頂まで続いていた草原

今後の展望

牧場やスキー場などの草原管理の従来の担い手だけではなく、地域内外の多くの立場の人間が草原維持を自分の課題だと受け止めなければ、急速に消失しつつある草原を後生に遺していくことは難しい。また、現在行われている草原の維持・再生活動は個々の団体や有志活動に依存しており、それらが継続を担保するための組織的な枠組みは十分とは言えない。草原の維持・再生活動が継続的に行われるためには、そこでの活動や交流に多くの人がやりがいと楽しさを見いだし、それがさらなる若手や新規参加者の参入につながる循環が必要だろう。

根子岳・四阿山の山麓にかつては一続きの広大な草原が広がっていたものが、現在では複数の自治体の様々な形態の草原に断片化してかろうじて維持されている。今回、行政界・業態・立場をまたいだ多様な草原関係者が、かつての広大な草原に思いを馳せながら、一致団結して草原の里100選の申請にこぎ着けた意義は大きい。これを契機に本申請草原が地域・全国・世界の中で大切なものであるとの認識を共有し、草原の維持・再生への機運を高めていければ素晴らしい。

菅平牧場の中で行われている火入れ

応募した理由

畜産農家の減少・高齢化やスキー場利用者の減少等により、かつての草原面積を維持することは難しくなっている。上信越国立公園の管理計画に本申請草原の保全が盛り込まれているにもかかわらず、全国における草原減少と同様の速度で本申請草原の減少が続いている。そのため今後は、観光やボランティアの裾野を広げて、地域内外の様々な立場の多くの一般の方々に草原の魅力や大切さを知っていただき、それらの方の助けを得ながら草原維持をはかる必要があるだろう。近年、その足がかりとなるイベントや教育普及活動が、地域内の様々な団体によって始められており、環境省と連携した観光事業・草原再生事業などの広がりも見せている。その機運を草原の里100選への登録によってさらに盛り上げ、私達の草原で行われている観光・スポーツ・自然教育・農産物生産が、生物多様性や持続可能性に配慮したものであることを掲げられるようにしていきたい。

(応募者:根子岳・四阿山保全協議会)

スキー場ゲレンデによる草刈り

選考委員のコメント

安藤 邦廣
安藤 邦廣

茅採取が茅葺き屋根の関係者ではなく、自然保護団体によって行なわれ、文化財の茅として利用されている点は、今後の茅の利用を促進するしくみを計る上で、先駆的な範例です。都市住民が親しんでいる代表的な草原だと思います。

長野県や新潟県をはじめ全国的にもスキー場は衰退しており、存続の危機にあります。そのような状況の中で、草原を守り維持するのは地元だけでは難しい現実にも直面しています。自然保護団体や市民団体、スポーツで訪ねる人らによって、茅を刈り、茅場として維持管理するような取組みが始まっており、そのようなモデルになってくれることを期待します。小谷村の茅場でも、白馬高校スキー部が、トレーニングを兼ねて茅の搬出作業などを行っています。スポーツとして茅刈りに関わっていく可能性に期待したいです。

岩井 茂樹
岩井 茂樹

乳牛の放牧・採草、短角和牛の放牧・交配が実施されており、筑波大学山岳科学センターを核に草原研究が実施されている点が評価されます。

町田 怜子
町田 怜子

私も訪れたことがあり、素晴らしい草原の里だと思います。大学、地域の皆さんと連携した草原の保全・管理について大変期待しています。

湯本 貴和
湯本 貴和

信州の草原として、草原に生きる植物や昆虫にとって非常に重要な場所です。筑波大学山岳科学センターの関与もたいへん高く評価できます。スキー場は、生物多様性の観点からOECM としても重要な場所です。

草原の情報

応募者 根子岳・四阿山保全協議会
所在地 長野県 上田市、須坂市
所有者 菅平牧場畜産農業協同組合、上田市東御市真田共有財産組合、財団法人仁礼会、井上共有財産組合、上田市、菅平旅客索道協会加入の土地所有者群、筑波大学山岳科学センター菅平高原実験所
管理者 所有者(民間団体、個人)、所有者以外(民間団体、個人)
面 積 502ha
指定等  国立公園、日本百名山

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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