霧ヶ峰

花々が彩る亜高山帯の草原をみんなで守る

霧ヶ峰の夏を彩る車山肩のニッコウキスゲ群落

草原の概要

霧ヶ峰は、八ヶ岳中信高原国定公園の中央に位置し、標高1,550mから1,900mにわたる山地帯から亜高山帯にあるなだらかな高原であり、近接する美ヶ原の草原とともに我が国でもっとも標高の高い半自然草原を有する。牛馬の飼料や田畑の肥料として草の需要が高まり、全山にわたる本格的な採草が行われるようになったのは、江戸時代頃で、入会地としての利用に伴い、現在のような草原景観ができあがったと考えられている。

1960年頃を境に本格的な採草や火入れが行われなくなり放置された結果、標高1,750m辺りまではススキ、それ以高はニッコウザサが優占繁茂したことにより多様な草原植物が減少し、また森林化が進行してきた。さらに観光道路の開通により外来植物の繁殖も目立ってきている。また近年増加した二ホンジカの被食により高原植物に大きな被害が出ている。

そこで、霧ヶ峰の草原景観や生物多様性を維持、再生するため、現在地域住民や行政などによって草原の保全再生事業がすすめられている。なお、最新の調査研究によって、霧ヶ峰では縄文時代には草原が存在し、火入れが行われていた可能性が示されている。

高原を散策する登山者

今後の展望

1960年頃を境に本格的な採草・火入れが行われなくなったことで、草原の森林化が進行している。また、草原植生も変化しており、ススキやニッコウザサが優占種となり、かつて随所に見られたニッコウキスゲの群落の多くが姿を消している。加えて、近年は二ホンジカの急増によってニッコウキスゲをはじめとする多くの高原植物の被食が深刻である。

一方、利用者の草原への踏み込みによる裸地化や人や車の往来による外来種の繁殖拡散がみられる。管理面では、半自然草原を残していく取り組みを継続するためには経費と人員が必要となるが、その確保が大きな課題となっている。特に、作業に参加している地権者や市民の高齢化が進んでおり、一般ボランティアの参加をさらに促していく必要がある。また、火入れの中止により伝統的手法が受け継がれなくなることが懸念される。

霧ヶ峰の自然は、人の活動との長い関わりを通じて形成されてきた。霧ヶ峰独自の貴重な自然を保全するためには、人が関わり続けることが必要である。そのため草原の保全再生活動やエコツーリズムの推進によって多くの方の参画、協力を得られるよう、草原の里100選に選定され、よりPRを進め事業に取り組んでいきたい。

ニッコウザサ群落の刈取り作業

応募した理由

霧ヶ峰には、長野県下で最大規模の半自然草原と高層湿原があり、八島ヶ原湿原、車山湿原、踊場湿原は国の天然記念物に指定されている。人の手が加わり維持されてきた半自然草原と、自然草原の一種である高層湿原によって、独自の植生景観が形成されている。

近年管理を担ってきた人々の高齢化、外来種やシカの増加などの問題もでてきた。草原の里100選を通じてより多くの人々に霧ヶ峰をPRするとともに、同じように草原を有する地域の団体の方と情報交換をし、今後の草原の利用と保全に役立てたい。

(応募者:霧ヶ峰自然環境保全協議会)

盛夏に咲くヤナギラン

選考委員のコメント

高橋 佳孝
高橋 佳孝

天然記念物に指定されている三つの湿原を抱く、本州で最大規模の広大な草原です。

官民が参加する協議会が設置され、自然保全再生実施計画のもとで多様な主体が連携協力して活動する基盤があることは評価されます。面積の広さを考えると、火入れを復活しないと全域の管理はむずかしそうです。縄文時代の遺跡群から近世以降の入会利用まで人の営みと関わりの深い自然環境で、また、独特な狩の形態(陥し穴)も存在していたなど、文化的にも貴重な草原ですので、ぜひ残してほしいと願っています。

ニホンジカによる食害は他の草原でも問題になっており、また、これから直面する草原も増えると予想されますので、当地での成果を情報発信していただけると参考になります。

町田 怜子
町田 怜子

霧ヶ峰は長年、研究者、ボランティアの皆さん等多様な主体が草原に関わっており、素晴らしい草原です。ニホンジカ対策と植生との関係、景観からみた草原管理や評価についての研究蓄積も多く、草原の里のネットワークに学術的情報を発信する役割にもおおいに期待しています。

湯本 貴和
湯本 貴和

貴重な植物をニホンジカの食害から守る獣害対策の場として活用したい場所です。日本の草原生の昆虫がほとんど見られるような貴重な草原でもあります。火入れ作業の再開にはマンパワーの確保が必要でしょう。

草原の情報

応募者 霧ヶ峰自然環境保全協議会
所在地 長野県 諏訪市、茅野市、下諏訪町
所有者 牧野組合、茅野市財産区、林野庁中部森林管理局
管理者 行政(所有者以外)、民間の個人(所有者)
面 積 1,400ha
指定等 国定公園、市区町村指定自然環境保全地域等、国指定天然記念物、環境省重要里地里山、日本百名山

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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