山肌に広がるみどりのじゅうたん
草原の概要
鬼岳(315m)は、長崎県の西に浮かぶ五島列島の最大の島である福江島(五島市)東部に位置する。その勇壮な名前とは対照的に、全体を芝生に覆われて丸みを帯びたやわらかな形状である。採草地として維持されたススキ草原とともに特異な景観を有し、古くから五島のシンボルとして親しまれている。山麓には園地や駐車場なども整備されており、山頂からは周囲の海や山、市街地を一望することができ、市民の憩いの場であるとともに、観光客が多く訪れる重要な観光資源となっている。当地の草原では、景観や生態系の保護を目的として、数年に一度の頻度で山焼きが行われている。
鬼岳は、火山噴火の噴出物でできた「スコリア丘」であり、西海国立公園の特別地域(第2種特別地域)や長崎県の天然記念物(鬼岳火山涙産地)に指定され、自然・景観の保護が図られている。2022年に認定された日本ジオパーク「五島列島(下五島エリア)」の主なジオサイトにもなっている。
当地を構成する多種多様な草原植物は、春には一面緑色、秋には黄金色へと季節ごとに表情を変える。山焼きは徐々に火をつけていき、最後は鬼岳一面が真っ赤な炎と煙に包まれる。数年に一度見ることのできるそのダイナミックな風景を、多くの市民や観光客が楽しみに待っている。
今後の展望
五島市の子供たちは、学校行事なども含めて鬼岳を訪れる機会は多く、当地の自然資源を利用する点では馴染み深い。ジオパークについても、地域づくりの中心に据えていることから、総合学習の時間などに組み込まれ、全体として子供たちの理解は進んでいる。
一方で、草原管理については、島の暮らしの中で春の風物詩として認知されているものの、数年に一度という頻度もあり、何のために行うのかといった目的を含めてジオパークほどの理解には達していない。当地の草原を未来に残していくためにも、島の将来を担う子供たちに、その理解を深めてもらうことが重要な課題であると考えている。
今回の草原の里100選への認定をきっかけとして、当地の草原について、今後、ジオパークとのつながりを深めていきたい。幸い、鬼岳はジオサイトであるだけでなく、その麓には、島の成り立ちや鬼岳の噴火活動などを理解するため最適な地層断面がよい状態で保存されている箇所がある。また、ジオパークの活動拠点としてリニューアルした鐙瀬ビジターセンターもある。この恵まれた条件を生かし、「草原の里100選×ジオパーク」として、ジオガイドによるジオツアーや学校教育の題材に組み込むなど、相互の活動をより深めるための展開を進めていきたい。特に学校教育という点では、ジオパークは既に学習に組み込まれており、それに草原の話題を加えることは比較的容易であり、かつ、それを子供たちに伝えられることは、当地の草原の未来にとって大変意義深い。
また、現在五島市は、再エネを活用した先進的な取組や連続テレビ小説の舞台など様々な面で注目されており、全国からの観光客や訪問者も多い。そのような中で、ジオパークと連携した草原の里100選として、当地の草原を多くの人々にPRすることを通じて、日本各地における草原の維持にも貢献したいと考えている。
応募した理由
五島列島は、五島層群と呼ばれる大陸由来の砂と泥が堆積した後、火山の噴火によって火山台地が形成された。ハチクマなどの渡り鳥は当地域を経由して日本列島と大陸を行き来し、遣唐使など歴史的にも大陸との関わりが深い。2022年には、これら大地・生態系・歴史文化と大陸とのつながりが評価され、五島列島(下五島エリア)は日本ジオパークに認定された。
現在五島市では、ジオパークを中心とした地域づくりを進めている。当地の草原は、鬼岳という山に広がり、地元住民はじめ多くの関係者の努力のもとで受け継がれてきた。離島であるが故に地域コミュニティの結びつきは強く青年団や消防団も活発で、それが山焼きなどの伝統行事の継承につながっている。
五島市のシンボルである鬼岳が、ジオパークとの関連性も含めて草原の里100選に選定されることで、多くの関係者が認識を新たにし、体制の強化や内容の充実、相互の取組の連携強化に資することを期待して応募した。
(応募者:五島市)
選考委員のコメント
当該エリアはジオパークに認定されており、地球科学的意義のあるサイトや景観が保護、教育、持続可能な開発のすべてを含んだ総合的な考え方によって管理されています。ジオパークと草原の連携、そのポテンシャルはものすごく高いと思います。
島嶼部のスコリア丘に形成された草原である五島・鬼岳にぜひ行ってみたいと思いました。島嶼部に位置する草原の里ということで、その草原保全管理・活用の発信は、他の島嶼部の良い参考事例になると思います。ジオパークやジオガイドとの連携方法も草原の里で情報共有されることを期待しています。
国立公園やジオパーク、世界文化遺産という種々の指定が存在していますが、その中で草原に対するフォーカスがやや弱いため、今回の認定が力になることを期待しています。
草原の情報
応募者 五島市
所在地 長崎県 五島市
所有者 五島市、本山財産区など
管理者 五島市、本山財産区など
面 積 70ha
指定等 国立公園、都道府県指定天然記念物、日本ジオパーク
書籍のご紹介
より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。