阿蘇・西原村

阿蘇の玄関口に広がる緑豊かな大自然

村内の山からは、熊本県内を一望できる

草原の概要

西原村には約1,100haの原野があり、春の訪れをつげる野焼き(火入れ)は木が繁茂するのを防ぎ、原野の害虫駆除と野草の再生を促すために行われている。原野には、ユウスゲ、オキナグサ、マツムシソウなど希少植物が生育しており、これらの保護のためにも欠かせない。

このような広大な草原を維持していくため、西原村では、区の住民がともに協力して行う「公役」として原野の野焼きや輪地切り(防火帯づくり)が行われてきた。原野はかつて牛馬の飼料のみならず、田畑の肥料となる草を刈ったり、炊事や暖の燃料とする薪を集めるなど生活に欠かせない場所であったからこそ西原村では牧野組合(畜産農家の組合)による管理ではなく区の共有財産として維持管理されている。

西原村は、南阿蘇の玄関口として阿蘇外輪山の西麓に位置しており、東部は阿蘇外輪山の一部である標高1,095mの俵山を中心に広大な原野と山林からなる起状の多い地形をなし、春には野焼き、夏には青々とした草原、秋には黄金の絨毯を広げたようなススキ原が広がり、冬には薄い雪化粧と四季折々で違った表情をみせ、訪れた人々の目を楽しませている。

また、阿蘇山系独特の気候変化により、山々からの風を強く受け、その風を利用し俵山中腹に風車を擁する風力発電所「阿蘇にしはらウインドファーム」が設置され、2005年より稼動している。

毎年行なわれる野焼き

今後の展望

西原村の草原を維持していくうえでの目下の課題は、安心して火入れを実施できる体制を整える事である。そのために、火入れ賠償保険への加入と、森林保険の加入を促進している。

火入れ賠償保険については、現在、加入できる商品が無く、保険会社と関係市町村とで設立に向けて、協議を重ねていく。保険が創立された暁には、可能な限り多くの草原で保険に加入できるように促進していく。

また、草原の周囲には森林が多く、森林火災の危険性が高いことから、村有林については、森林保険に加入している。しかし、その他の公有林や民有林については、保険に加入していなかったり、加入していても掛け金が少ない等の理由で、延焼事故があった際に多額の賠償が発生するなどのリスクが存在している。そのため、森林保険の周知や、加入の促進に一層つとめていくことが必要である。

飛行機を降り、阿蘇くまもと空港から阿蘇方面に向かう際、真っ先に目に入ってくるのが本村の草原である。本村の草原は、様々な問題を抱えながらものべ1,000人以上の牧野組合員、地元地区の住民、関係者の努力によって現在まで維持されている。今後進んでいく高齢化と、担い手不足を抑え、一日でも長く草原を維持していくことが我々の目標である。今回の応募を通して、多くの人に本村の草原の良さを知ってもらうことで、少しでも草原の維持につながることを期待している。

小学生へ、自然に関心を持ってもらう取り組み

応募した理由

西原村の草原は、現在、存続の危機にある。これまでも火入れ実施者の高齢化や人口減などの慢性的な問題と常に向き合ってきたが、2021年度に行われた火入れの際、阿蘇管内の複数の原野で延焼事故が発生した。本村の原野でも10haを越える森林が延焼し、補植の費用を賠償する必要が生じた。賠償費用の大きさや、それに伴う責任問題などにより、火入れを中止せざるを得ない地区や、火入れ面積の縮小を行う牧野も出始めている。しかしながら、千年以上の昔から人の手によって維持されてきた草原を、自分たちの代で終わらせてしまうのは余りにも忍びなく思うと同時に、特有の景観や多様な生態系、固有の文化を持つ草原を失うことは、文化的にも大きな打撃となると考える。

先祖代々受け継いできた草原を今後も維持していくため、草原の里100選に応募することで、世界中の様々な人に知ってもらうこと、また草原利用の活性化や観光資源としての価値の向上につながることを期待し、今回応募した。

(応募者:西原村)

火入れを行なうことで、豊かな自然が保たれる

選考委員のコメント

河野 博子
河野 博子

2021年の阿蘇管内原野の延焼事故を経て、火入れ賠償保険など対策を検討されているとのこと。最近、関東の渡良瀬川や利根川沿いの草原での延焼発生のほか、火入れを中止している場所も多く、草地利用と保全の先進的取り組みを続ける地での実践に注目しています。

高橋 佳孝
高橋 佳孝

年間に1,000人以上もの住民が牧野(草原)の野焼きに参加する、独特のコミュニティが存在しています。どこも担い手不足が深刻化する中、火入れ作業に携わる人数が突出して多いのが特徴です。牧野管理などの共同作業で培われた地域コミュニティの連帯感は、熊本地震後の復旧・復興の原動力になったと聞いています。2023年2月には、延焼の賠償責任が包括された火入れ保険が阿蘇管内で創設され、ほぼ全域の市町村が加入しています。同様の問題を抱えている他の地域の参考になりますし、今後、全国版もできるとよいと思います。

町田 怜子
町田 怜子

西原村は阿蘇地域特有の貴重な生態系が残っている場であり、私も大好きな草原です。熊本地震の被害を受け、阿蘇草原再生協議会や阿蘇グリーンストックの皆さんと一緒に草原再生・復興を果たされたことも心に残っています。「火入れ詳細図」などの安全な草原管理の仕組みづくりは、他の草原の管理に対する貴重な知見になると期待しています。

草原の情報

応募者 西原村
所在地 熊本県 西原村
所有者 西原村
管理者 その他
面 積 1,100ha
指定等 国指定鳥獣保護区、重要文化的景観、日本百名山

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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