土呂部の茅場

茅ボッチの並ぶ里山風景と草原植物を守る

茅ボッチと土呂部集落

草原の概要

日光市土呂部地区は、利根川の支流である鬼怒川の源流域に位置し、福島県境に近い標高900mほどの山村集落である。茅場は集落を見下ろす山のなだらかな斜面に立地し、集落、畑、周辺の山林とともに山里ならではの穏やかな景観を醸し出している。

江戸期頃から茅場として利用・管理されてきた草原の明るい環境は、多くの希少種を含む草原性動植物の宝庫であり、現在栃木県内の半自然草原としてはほぼ唯一の環境となって、県レッドデータブックにも保全を進めるべき環境として位置づけられている。毎年秋の彼岸の時期の茅場に、ススキなどの草を束ね立てかけた「茅ボッチ」が立ち並ぶ風景は、「とちぎのふるさと田園風景百選」の一つにも選ばれた。

戦後間もない頃は約100haほどあった茅場は、管理放棄や植林によって森林化が進行し、1976年には約20haに、2013年には約5haにまで減少した。残された茅場を維持し、茅ボッチの並ぶ里山風景と草原植物を守るため、日光茅ボッチの会を設立し活動を始めた。

コウリンカ(紅輪花)

今後の展望

人々の生活とともに残され多様性のある自然を育んできた茅場のさまざまな課題を解決しながら、大切な宝物を将来につないでいくという気持ちで、現在の活動をさらに工夫しながら発展させていく。

まず、基礎的な調査の継続が必要である。茅場の管理方法の違いが植物の生育や開花にどのような相関があるかを検証するために20ヶ所設けた草地管理試験区で基礎的な調査を継続し、効果的な管理方法を探っていく。

茅場の復元にも取り組んでいる。植林後ほとんど手入れがされていないヒノキ人工林を所有者の了解を得て伐採したところ、数年経過後草原性植物の再生が確認されたので、今後もできる限り草原復元を図っていく。

同時に、獣害対策の必要がある。これまで設置した電気柵の効果に限界を感じているが、試験的に設置した物理柵に大きな効果が期待できたため、今後は獣害防止ネットで茅場全体を囲っていく。

希少植物種の増殖のために、草原性希少植物種を中心に、秋に採取した種子を播種し苗畑で育苗の後、茅場に移植する試みを実施している。

新たに、明るく開放的な草原環境を「土呂部自然園」のような形で開放することも検討しつつ、歩道や休憩施設、表示などの基盤整備やイベントなどを通し茅場の魅力を伝えていく。

私たちは、土呂部が元気になれるように願い、活動している。少子高齢化により集落存続の危機すら感じるようになった土呂部集落。住んでいる人々が元気になることが草原を残していくことに繋がっていく。当会の活動は地元の人々の協力と支援で成り立っている。その感謝の気持ちも込めながら地元の元気な主婦たちとメープルシロップ作りを進めてきた。

これからもこのような取り組みを当会の身の丈に合った範囲で地元の人々と共に進めていきたい。

土呂部のお母さん方とメープルシロップづくり

応募した理由

人々の営みによって守られてきた全国各地の草原と同様、土呂部の茅場も屋根材や牛馬の飼料、炭俵の材料、山菜採取の場として人々の生活には欠かせない大切な資源だった。そして集落・田畑・草原・山林から生み出される資源を循環させることにより山村に住む人々の生活を支えてきた。

その資源のなかでも、とくに草原は忘れ去られた最たる環境である。集落や田畑、山林といった個々の再構築の試みは良く耳にするが、草原まで含めた集落環境全体の資源循環という視点は乏しい。

土呂部の茅場が「草原の里100 選」の一員に加われるならば、存続の危機にある集落に住む人たちの誇りにも繋がっていくとともに、山里の資源循環によって守られてきた自然環境の素晴らしさ、そしてそれを守っていく大切さを多くの人に理解してもらうきっかけになるものと考える。

(応募者:日光茅ボッチの会)

観察歩道整備

選考委員のコメント

長沢 裕
長沢 裕

歴史もあり、茅ボッチのある風景がとても印象的でした。草原を維持するための活動も活発に行われている印象があり、資料を拝見させていただいて特に行ってみたいと思える草原でした。茅ボッチがだんだんと物語に出てくるかわいらしい妖怪のようにも見えてきて愛着が湧きました。交流人口を広げ、様々な思い出を紡いでいく姿勢に感銘を受けました。

町田 怜子
町田 怜子

かつての草原の循環型社会を現代版へ展開するために物質循環のサイクル、イベント、地域産物のアイデアや工夫がとても興味深く応援したいと思いました。
湯本:過去の歴史・文化的な価値を継承し、物質循環あるいは生物多様性という新しい価値を付け加える努力もされていて、きわめて興味深く感じました。また、短中長期の課題と展望についても、しっかりとしたお考えをお持ちのようです。

草原の情報

草原の里 土呂部の草原を次代に-日光茅ボッチの会
所在地 栃木県 日光市
所有者 個人
管理者 日光茅ボッチの会
面 積 5 ha
指定等 国立公園、地域森林計画対象民有林

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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