入会の森「上ノ原茅場」

茅刈士を育てる利根川流域コモンズの里

末黒野と残雪の谷川連峰を望む

草原の概要

上ノ原茅場の特徴は「1.首都圏に近い歴史とロマンあふれる里」「2.茅場とミズナラ林が織りなす美しい里山景観」「3.関東一の河川・利根川の源流域にあり、谷川連峰や上州武尊山を仰ぐ絶景の地」「4.関東一・全国有数の豪雪地帯」の4つに集約される。

みなかみ町は、首都圏からのアクセスも良く、スキー、ゴルフ、温泉に加え、豊富な利根川の水流を利用したラフティング、キャニオニングなどのアウトドアスポーツのメッカとして有名である。また上ノ原茅場のある藤原地区は、奥州藤原氏の末裔が移り住んだといわれる歴史とロマンにあふれる山村である。

春の野焼き、秋の茅刈りで維持される茅場の背後にはミズナラ二次林が広がり、その山塊を湧水源とする十郎太沢の美味しい湧き水も飲むことができる。

一帯は利根川源流域、上州武尊山(2158m)山麓の標高1050~1200mの比較的ゆるやかな地形からなり、遠くに谷川連峰など上越国境の山々を見渡せる絶景が広がる。

気候は、関東一の豪雪地帯で、毎年2m以上の積雪があり、年平均気温は8.7℃、年間降水量約1,800mmである。

技術を駆使して安全第一に実施する

今後の展望

みなかみ町はユネスコエコパークにも登録されており、人と自然が共存できる地域を目指している。そのシンボルとなるような草原の保全と活用を目指していきたい。また、利根川の源流域で首都圏の水源地でもあるみなかみ町には、多くの都会の学校団体が林間学校などで自然体験学習に訪れる。今後も、上ノ原茅場を環境教育の場として積極的に活用していきたいと考えている。さらに、都会の生活に疲れた人々が上ノ原茅場を訪れ、自己を見つめリフレッシュできる場としてのリトリートのプログラムにも取り組んでいきたい。

しかしながら、地元で長年、茅刈や野焼きなどの茅場の管理を指導してもらっているお年寄りが少なくなってきており、その技術や文化を継承していくことが急務である。現在、自伐型林業に取組む若い世代の人たちに、里山の管理の技術や文化を継承してもらうための取り組みを始めている。

また、活動開始から20年近い時が立ち、森林塾のメンバーも高齢化しており、会の存続も危ぶまれていたが、少しずつではあるが、若い会員も増え世代交代も進んでいる。

現在、刈り取った茅は、すべて文化財を中心とした茅葺屋根の材料として、買い取ってもらっており、環境を保全しながら経済的にも循環する仕組みが出来つつある。今後は、より品質の高い茅を供給できるよう技術の向上に努めたい。また、茅が有する優れた断熱効果に着目した利用その他幅広い活用への道筋も追求していきたい。

しかし、旧来の資源採取だけの供給サービスだけが目的では、この草原を維持していくのは難しい。新たなサービス価値として、生物多様性の保全、二酸化炭素吸収、水源涵養、伝統文化の継承、エコツーリズム、環境学習、癒しの空間(リトリート)等を総合的に評価した生態系サービスとして位置づけ、地域だけではなく利根川流域住民の共有財産(コモンズ)として、この草原を守っていく必要がある。

地元古老の指導による茅刈り講習

応募した理由

利根川源流の水源地にある「上ノ原茅場」は、かつて200haの広大な茅場であったが、高度経済成長期にそのほとんどはゴルフ場やスキー場に開発された。その後、開発を免れた11haの茅場は、奇跡的に植林もされず40年以上放置され残った。森林化しつつあったこの茅場を2003年から首都圏のボランティア団体である森林塾青水が、かつての茅場の姿に戻す活動を始め、隣接するミズナラ林10haと合わせて21haの管理を続けている。

「飲水思源(水を飲む時は、その源を思うべし)」を合言葉に集まった利根川流域の都市住民と地域住民が協力して、現代版入会=日本型コモンズづくりに挑戦している。近代まで続いた入会慣行という先人の知恵に学び、現代の荒廃しつつある里山の生態系、並びに日本人の心の原風景とも言うべき里山景観の持続的保全活用を目指している。貴重な草原をより多くの人に知ってもらい、訪れて、一緒に活動してくれる仲間が一人でも多くなることを期待する。

(応募者:森林塾青水)

合言葉「飲水思源」と未来の仲間たち

選考委員のコメント

安藤 邦廣
安藤 邦廣

元々200haあった茅場の大半がゴルフ場やスキー場に開発されるという、日本の山間地域の茅場の消失過程の典型的な例ですが、下流の首都圏の都市住民が水源の保全のため茅刈りと野焼きを継続することで、茅場としての利用が持続されているのは、他の草原の模範となる画期的な取り組みだと思います。茅刈りについては、ワークショップを行うとともに茅刈り検定をいち早く取り入れて、良質な茅の育成とともに刈り手の育成に取り組んでいる点も高く評価されるべきでしょう。

町田 怜子
町田 怜子

茅刈検定など茅を地域資源として循環する仕組みが印象に残りました。群馬県でも茅を資源にした取組が広がっていることから、良いモデル事例になることが期待されました。

草原の情報

草原の里 入会の森「上ノ原茅場」
所在地 群馬県 みなかみ町
所有者 みなかみ町
管理者 みなかみ町(所有者)、所有者以外の団体
面 積 11 ha
指定等 町指定昆虫等採取制限地域、ふるさと文化財の森、ユネスコエコパーク、環境省重要里地里山

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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