蒜山高原の草原

蒜山三座のすそ野に広がる生き物の住処

草原の谷あいの湿地に咲くノハナショウブ

草原の概要

蒜山の草原は、少なくともおよそ 800 年ほど前から、春の山焼き、夏の草刈り、秋の茅刈り等によって伝統的に利用されながら維持されてきた。春の雪解けを待ってから、それぞれの集落で山焼きを行い、6月上旬(旧暦の端午の節句)ごろから、草を刈り始め、お盆ごろには家の前に刈ってきた草を3mほど積み、勤勉さを競った。また、昭和初期には多くの家で牛を飼っており、その牛とともに朝草刈りに出かけていた。地元の古老からは、牛の背中に乗せられて草原に行っていたという話を聞くことができる。

このような利用の結果、昭和30年代ごろまでは、蒜山三座のすそ野に広大な草原が広がっていたが、草資源の必要性が低下した結果、ほとんどの草原が牧草地や植林地に代わってしまった。現在は5つ程度の集落により山焼きが実施されており、草原が点在している。

草原から大山を望む

今後の展望

蒜山地域でも社会の発展に伴って、草原を利用する必要性が失われてきつつあり、山焼きそのものを止めてしまう集落が出てきてしまうなど、かつては地域の個々の集落で伝えられてきた伝統的な草原管理のノウハウは、喪失の一途をたどっている。このような状況を食い止め、草原を管理し、恵みを享受する伝統を将来に引き継いでいく必要がある。そのためには有識者による調査・研究だけでは不十分であり、今の時代の価値観や社会のニーズに合わせて、草原を利活用していくためのアイデアが必要である。たとえば、自然と調和した形での草木資源の利用・商品開発・ツーリズムやレクレーション利用などを進め、土地所有者として草原の管理に関わる地域住民や行政、事業者などにとって、環境保全に関わりつつも経済的なメリットを得ることができるようにする必要があると考えている。蒜山地域ではこのような危機感のもと、利害関係者の垣根を超えて、課題を共有し、解決に向けて議論と実践を進めていく場作りが必要と考え、2022年1月20日に蒜山自然再生協議会が発足した。この協議会は、単に蒜山の草原を保全・再生していくことだけを目指すものではなく、「これまでの先人たちによって培われてきた草原管理の技術を引き継いで管理を進めていくとともに、今の時代の価値観に合わせた新しい草原利用の形をつくる」ことを目標としており、草原の恵みを享受しながら地域の暮らしも豊かにしていくことを目指している。地域の伝統の中にある、土地や資源の利用をもとに、商品やサービスの開発を進め、今の時代に合わせた草原利用の動機づけを進めていきたいと考えている。そのために、科学的な知見を重視し、モニタリングや調査を実施することはもちろん、有識者だけでなく、地域住民、学校、行政、事業者などがそれぞれの得意分野を生かして連携し、持続的に、かつ順応的に課題解決に取り組んでいきたいと考えている。この協議会の取り組みを通じて、草原を始めとした自然再生が進むのみならず、新たに生まれた商品やサービスによって、地域住民や事業者が経済的な恩恵を得ることができる、かつ地域住民や学校、観光客などが改めて草原を始めとした蒜山の自然との距離を縮め、積極的に自然に関わっていく状況が生まれることを期待している。

自生する茅を活用した観光施設

応募した理由

蒜山高原は、蒜山三座のすそ野に広がる草原が重要な景観要素であるということで、1963年に大山隠岐国立公園に編入された。江戸時代以前から草原が広がっていたとされ、集落による山焼きが現在まで続いてきた結果、種の保存法に指定されている「フサヒゲルリカミキリ」をはじめとする希少な動植物が生息・生育する生物多様性保全上重要な場所として評価されている。しかしながら、かつてのように草原を利用する動機がない現代社会においては、地域住民にとっては草原は既に遠い存在になっているように感じている。そのような危機感から、蒜山では2022年に「蒜山自然再生協議会」が設立された。この協議会では「先人から引き継がれてきた地域の自然資源利用の仕組みを現代に合わせて創り出し、蒜山地域固有の自然、文化、景観を次世代に引き継ぐ」ことを目標として掲げ、草原をはじめとした失われつつある自然を保全・再生していくのみならず、精神的に距離が離れてしまった住民と自然をつなぐために、様々な取り組みを進めていきたいと考えている。そのような取り組みを進めるにあたり、草原の里 100 選に登録されることで、地域の方々に対して蒜山の草原が日本を代表する価値があるということを伝えることができるとともに、真庭市の取組み及び設立されたばかりの協議会の活動を後押しすることになるのではないかと考えて応募した。

(応募者:真庭市)

ボランティア主体で行われる山焼き

選考委員のコメント

安藤 邦廣
安藤 邦廣

中国地方を代表するススキ草原の観光のシンボルとして、新しい茅葺き建物や茅利用に積極的に取り組んでいます。伝統的な民家だけではなく、茅葺きの魅力を商業建築やインテリアなど現代建築に生かすことは、今後の茅利用の活路を開く先駆的な取り組みです。茅刈りには地域住民が積極的に参加して、地域資源を活用した雇用の創出にもつながっています。

町田 怜子
町田 怜子

西日本でも貴重な半自然草原であり、観光・レクリエーション面や生物多様性の側面かからみた国立公園としての草原利用も印象に残っています。
高橋:自然再生協議会を設立して、多様な主体が関わりながら草原の現代的な意義についても共有していく点は、今後大いに期待が持てます。真庭市で取り組む「地域循環共生圏」の理念を踏まえ、周辺の観光施設や県内の企業などを巻き込んでほしいと思います。

草原の情報

草原の里 蒜山高原
所在地 岡山県 真庭市蒜山
所有者 真庭市、地元集落、個人
管理者 所有者個人、所有者以外の行政・団体(入会権を有する集落で山焼き等を実施)
面 積 130 ha
指定等 国立公園、環境省重要里地里山、ふるさと文化財の森

書籍のご紹介

より詳しい情報は、書籍『未来に残したい日本の草原(未来に残したい草原の里100選運営委員会 編)』をご覧下さい。

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メディア掲載

「草原の里100選」に島根・大田の三瓶山麓 中国地方は他に6カ所 | 中国新聞デジタル
 美しい草原風景を保全する地域や団体を顕彰する「未来に残したい草原の里100選」に、島根県大田市の三瓶山麓が選ばれた。減少傾向にある草原を次世代に引き継ごうと、全国の24市町村でつくる「全国草原の里市...